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「ああいうタイプ、近付かない方がいいんじゃない?」
そう言って萌はジュースのストローをくわえた。
「どうして?」
菜々美が聞き返す。萌がストローを外すと、ズ、と音がした。
「だって相当モテるでしょ。モデルとかのスカウトマンにもよく声をかけられるらしいよ。顔面入試とかあったら東大に入れるんじゃない? 女なんて選び放題だろうしさ、絶対いっぱい遊んでるって。もしつき合ったとしても絶対泣かされると思う」
萌はまたストローをくわえた。
「誰も、近付くなんて言ってないじゃない。私だって自分の事くらい分かってるから」
そう、自分のことくらい分かっている。立花龍之介とつき合うなんて事態にはなりえるはずがないのだ。萌だって、気をつかって「もしつき合ったとしても」という言い方をしてくれたけれど、きっとそうなるとは思っていない。心配しているのはただ“遊ばれる”ことのほうだ。
「ただ見てるだけだよ。目の保養。だって地元にあんな人いないもん」
「あたしの地元にもいない」
菜々美はそう言った後に、「でもあたしはちょっと苦手かな。なんかリアリティないもん」と付け加えた。
立花龍之介にはリアリティがない。
たしかにその通りだと思った。どこかで自分たちと同じような日常生活を送っている姿など、まるで想像できないのだった。
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