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その後も、他の二人は何かと理由をつけてほぼ糸恵たちに任せっきりだったから、龍之介とばかり連絡を取り合っていた。彼の気さくな性格のおかげでだいぶリラックスして話せるようにはなったけれど、会うたびにときめく気持ちに変わりはなかった。
「立花君いたら楽勝だね」
糸恵と龍之介は街路樹の下のベンチに腰掛け、缶ジュースを片手に一息ついていた。課題の一環として、街行く人を呼び止めてアンケートに答えてもらう作業の途中だった。
「楽勝? 何が?」
「アンケート。私が呼び止めてもなかなか止まってくれないのに、立花君が声かけたら、特に女の人はすぐ止まってくれるじゃない?」
「そうかなあ」
彼は少し首を傾げた。
「私、大学に入って初めの頃、立花君てどっかの国の王子様みたいって思ってたんだよ」
龍之介は缶に口をつけたまま黙っている。
「言われたりしなかった?」
「それってあの髪のせいでしょ。って言うか俺、ホントそういうキャラじゃないし。あの髪だって、行きつけの美容院のお姉さんに、どうしてもって勧められてやったんだ。試しに一回だけって。絶対似合うからって。前から一度そうしてみたかたって。俺がじゃないよ? 美容師のお姉さんがだよ?」
「でもすごく似合ってたよ」
龍之介は黙り込んだ。糸恵は他意もなく、というかむしろ賞賛のつもりで言ったのだったが、彼がなんとなく気を悪くしてしまったようで内心うろたえていた。
「なんか、気を悪くしちゃったんならごめんね」
「別に謝ることないよ。褒めてくれたんだし。でも、今のじゃ、ダメ?」
目が合った。ドキッとした。まるで彼氏が彼女に言うような口ぶりだと思った。
「そんなことない。今のだってすごく似合ってる。すごく」
大学に入学した頃の彼のカフェオレみたいな髪の色は、二ヶ月もしないうちにダークブラウンに変わった。そして女子学生たちの話題に上がった。糸恵はそれで初めて、あれが地毛ではないことを知った。顔立ちに馴染んでいたから、天然の色なのかと思っていた。それ以来、長さや形は少しずつ変わるものの、龍之介の髪はダークブラウンのままだ。おそらく、それこそが本来の色なのだろう。カフェオレ頭の王子様もよかったけれど、どちらかと言うと糸恵はダークブラウンの方が落ちついていて好きだった。
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