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11
夜、寝室に行くとゆき子は、あっけなく眠りに落ちた。僕は静かにその時を待った。あと数分でお別れだ。
(案外簡単に隠し通せたな…)
ゆき子の寝顔を覗き込む。愛しいと思う。置いて行きたくない、と思う。
ふと、ゆき子が目を開けた。僕はそのまま、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「そうやって、じっと見つめる癖。テニスにハンバーグに…2階に避難…。」
(え…)
「たぶん…たぶんだけど、私が思っている通りだとして、とりあえず…私は嬉しかったよ。」
(まさか…)
「そりゃ気づくよ。…隠しててごめん。でも多分気づいちゃいけないやつだなって思って。」
そうだ、ゆき子は僕以上にそういう不思議を簡単に受け入れられる人間だった。なにしろ、ぬいぐるみを神様にしてしまうくらいだ。
「あ、そうだ。その内…内藤君の隠し事も聞けるよ。お墓に自分で話しに行くって言ってたから。」
(…内藤の隠し事?)
「私はちゃんと…直接言うね。…もう…大丈…大丈夫…になるから…心配、しないで。帰って来てくれて…ありがとう…。」
言葉を持たない僕は、ゆき子の瞳から溢れ続ける涙に口づけをした。
「さよなら。愛してるよ…まーくん。」
ゆき子は微笑んだまま、すうっと眠りに落ちた。タイムリミット数秒前に僕を呼んだ彼女は、この記憶を失うのだろうか。僕の名前は西谷雅史。彼女だけの呼び名は、名を呼ばれた内に入るのだろうか…。
僕は、最初に死んだ時には無かった生への執着を手に入れて、真っ白な光に包まれた。49日と言う時間は、逝く者と残る者が生と死を受け止める時間なのかもしれない。
向こうに着いたら、とりあえず、あのふてぶてしい猫と、優しいソーセキに、感謝を伝えよう。
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