7人が本棚に入れています
本棚に追加
10
残りの数日は、ごくごく穏やかに過ぎた。内藤も姿を見せなかった。
彼女は、終始穏やかで、そしてなんだか朗らかだった。
一度だけ、彼女の誘いで、突然ドライブに出かけた。思い出の海岸で写真を撮った。
最後の日の昼下がり、ゆき子は窓際でネコガミに話しかけている。
「ありがとう。」
また何か願いが叶ったようだ。ネコガミの真実も彼女には隠しておこう。
つけっぱなしのテレビでテニスの試合が始まる。ゆき子はまだネコガミと戯れている。僕の興味が画面に移る。
テニスの試合に夢中で時を忘れた僕に、ゆき子が声をかける。
「ねぇ、こっちで一緒に食べない?」
(…もうそんな時間か。)
最後の日だと言うのに、特別なこともせず、それぞれの時間をまったり過ごしてしまった。逃避…なのかな。
食卓には僕の好きな和風ハンバーグ。
「あげないよ。猫は玉ねぎダメなんだから。あなたはこっち。」
ちょっとゴージャスな今の僕にとってのごちそうが差し出される。
(しかたないなぁ…)
「そんな顔しないっ。」
ゆき子がコロコロと笑う。
何も知らずに、ゆき子は明日からもこうしてソーセキと暮らすのだろう。中身が変わったことなど気づかずに。それも、いいのかもしれない。今更改めて悲しい思いをさせることはない。
最初のコメントを投稿しよう!