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隠し場所
さて、旦那さんのお給料日に妻のM子さんは今月の生活費の一部として最寄りのATMから10万円を引き出しました。自宅に戻ったM子さんは財布のお札を数えたところ、1万円札が10枚と5千円札の紙幣が一枚有りました。
M子さんは何を思ったのか財布から1万円札一枚を取り出すとタンスの子引き出しにしまいこんでしまった。
勿論M子さんはこの1万円を決して隠すつもりで子引き出しにしまったのでは無かった。今月は、この1万円が無かったものとして、一度家計のやり繰りに挑戦してみたかったのである。
あれから一月が経ちM子さんは、いつものようにATMで10万円を引き出した。その時の財布には千円札が3枚残っていたので1万円札9枚と3千円を財布に残して、先月同様タンスの子引き出しに1万円札を一枚入れようとして、引き出しを開けた。
この時M子さんは、先月しまっておいた1万円札を視てしまった。
「いゃ~ラッキーや!ひと月で1万円儲かったやん・・今月も上手にやり繰りすれば・・2万円になるやんか!」
このようにポジチィブに考えた瞬間、M子さんの鼓動はとても愉快に騒ぎ始めた・・と同時に誰かに自慢したくなっていた。誰に自慢するかって?・・勿論給料を稼いでくれる旦那さんでしょう⁉
その夜の旦那さんの帰宅は遅くなってしまった。しかも接待を理由にひどく酔っぱらっていた。結局M子さんはタンス預金のことは話せずじまいだった。
あれから数日が過ぎてしまった。時間が経つことで、M子さんのあの日の興奮はすっかり冷めていた、と言うか・・あえて旦那に話すほどの事でもないとさえ思えていたからだ。
あの日から1年が経った。M子さんはタンスの子引き出しから1万円札を十数枚手に掴みながら、やや興奮気味に部屋のあちらこちらを見回している。気になる私は天の声でM子さんに尋ねてみた。
「M子さん⁉ 先ほどから部屋中をうろうろと・・しかも沢山の万札を握って、まるで穏やかじゃありませんよね?」
「誰だか知らないけどちょうどよかったわ、あなたならどこが良いと思います・・このお金を隠すところを探してるの?」
「なるほど、空き巣が入っても見つからない、家族だけが知り得る隠し場所のことですね?」
「違うわよ! 主人に見つからない隠し場所のことよ!」
最初は僅かでも節約出来ないだろうか? なんて健気なM子さん・・だったのが本人も気づかないうちに、ご主人に内緒のヘソクリへと進化してしまったと言う物語である。
一月で1万円、一年で12万円とすると、10年で120万円にもなります。
M子さんのことだから、この先、家族にとってそれを必要とする時が来れば・・
「あなた、少しだけれど私に貯えが有るの・・良ければこれ使ってくれる」と潔く協力してくれると私は想像しますがね。
誰ですかね⁉ うちの女房に限って、それは無い!・・それはアンタの妄想だなんて夢の無いことを仰ってるのは!・・えっ、私のこと? そうかも知れませんね、なにせこの小物語も元を正せば創り話に違いない。
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