Ⅲ-22 朝日と起きて、夕暮れに帰ろう

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「二十年間、眠っている君に話し掛けてきた。何の反応も無かった君に。もうやめなよって言われた事もある。たぶん、傍から見るとちょっとだけ気味悪かったんだろうね。でも諦め切れなかった。生きている限り声を掛け続ければ、何かの拍子に起きて返事してくれるって信じてた。だから今はただ、何だか本当に、お伽噺みたいに、ふわふわした気持ちでいっぱい」  その声も、手も体も微かに震えていた。確かにこの瞬間はお伽噺のようにふわふわしているけど、でも、何があっても決して壊されない。 「マルール」 「なぁに?」 「大切だから永遠であって欲しい事もある。だから、これはそのしるしにしましょう」  そして私は腕を解いて向かい合ったマルールに「おはよう」と言って口付けた。  呆気に取られた表情で私を見るも、その顔は真っ赤になってどんどん調子に乗ってくる。 「あ、あのさ、エルネスティー」 「ええ」 「わたしからキスするの、目標だって言ってた事も忘れてないよね?」 「……ええ」 「じゃあ今ここで二十年分のキスしていい?」 「唇が腫れ上がるわ」 「じゃあ二十年分のハグしていい?」 「夜が明けてしまうわ」 「じゃあ……」 「?」 「……家に帰ったら二十年分、キスもハグもしていい?」 「……」 「えへへ……今日の夜は、寝かさないぞ?」  圧を感じる笑顔を向けられて一瞬たじろいだ。こういう人を揶揄う性格は本当に変わっていない。  それから二人、家路を再び歩み出した。  そしてマルールの冗談じみた言葉が本気だったのに気が付いたのは、おやすみ、と告げてからすぐの事だった。
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