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「二十年間、眠っている君に話し掛けてきた。何の反応も無かった君に。もうやめなよって言われた事もある。たぶん、傍から見るとちょっとだけ気味悪かったんだろうね。でも諦め切れなかった。生きている限り声を掛け続ければ、何かの拍子に起きて返事してくれるって信じてた。だから今はただ、何だか本当に、お伽噺みたいに、ふわふわした気持ちでいっぱい」
その声も、手も体も微かに震えていた。確かにこの瞬間はお伽噺のようにふわふわしているけど、でも、何があっても決して壊されない。
「マルール」
「なぁに?」
「大切だから永遠であって欲しい事もある。だから、これはそのしるしにしましょう」
そして私は腕を解いて向かい合ったマルールに「おはよう」と言って口付けた。
呆気に取られた表情で私を見るも、その顔は真っ赤になってどんどん調子に乗ってくる。
「あ、あのさ、エルネスティー」
「ええ」
「わたしからキスするの、目標だって言ってた事も忘れてないよね?」
「……ええ」
「じゃあ今ここで二十年分のキスしていい?」
「唇が腫れ上がるわ」
「じゃあ二十年分のハグしていい?」
「夜が明けてしまうわ」
「じゃあ……」
「?」
「……家に帰ったら二十年分、キスもハグもしていい?」
「……」
「えへへ……今日の夜は、寝かさないぞ?」
圧を感じる笑顔を向けられて一瞬たじろいだ。こういう人を揶揄う性格は本当に変わっていない。
それから二人、家路を再び歩み出した。
そしてマルールの冗談じみた言葉が本気だったのに気が付いたのは、おやすみ、と告げてからすぐの事だった。
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