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1. 奏の焼きそばパン
四月。
田舎の男子高校生、橘奏が高校に入学して一番困ったことといえば、給食がないことだった。
奏は早くに母を亡くしている。
父は、トーストを焼く以外、料理などしたことがない上、仕事に忙殺されている。
ふだんの夕飯は、お手伝いさんが来て作ってくれるか、外食か出前、スーパーの弁当といったところだ。
中学までは給食があったので、それで事足りていた。
だが高校生になると、お昼にお弁当が必要なのだ。
小高い丘の上にある高校は、周りに店もなく、昼休みにスーパーやコンビニに出るにはちょっと遠すぎる。学食もない。
栄養を心配する父は、せめてスーパーで前日買った弁当を持って行けと言う。
だが、「3割引」だの「半額」だのと目立つシールの貼ってある弁当を教室で食べるのは恥ずかしくて、奏はその弁当を持って行ったことはない。
そして今日も今日とて、彼はパンを買うために購買部に並ぶのだった。
購買部から帰る途中、たまたま廊下で行き会った幼馴染の桐生郁人が、奏の持っている焼きそばパンとメロンパンを見て言う。
「奏くん、毎日パンを食べてません?」
郁人とはクラスが別だし、昼食を一緒に食べるわけでもないから、奏は驚いた。
「え? なんで知ってるの?」
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