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近くの公園のベンチに、僕と三輪は並んで腰かけた。
今日は少し暖かいけれど、もう日が暮れようとしている。
「言っておくけれど、私は別に、人に言いふらそうとかは考えていないから」
「助かる」
「スカートが穿きたいの?」
三輪は、自分のすとんとした白いロングスカートを指先でつまんで言った。
「穿きたい。素晴らしい衣服だと思う。ずっと思っていたけれど、今日ついに実行に移した」
三輪が、表情を変えないまま、小さくうなずく。
「いいわよね、スカート。私も好き」
「道理で」
「何が?」
「そのスカートは、三輪によく似合っていると思う。三輪は、服を選ぶのが上手なんだな」
く、と三輪の肩が縦に揺れた。もしかしたら、笑ったのかもしれない。
「上郷くんが、そんなことを真顔で言うとは思わなかった」
「真顔というか、表情のパターンの持ち合わせがないんだ」
それも真顔で言うとおかしい、と三輪の肩がまた揺れた。先程よりも少し大きく。相変わらず、すわったような目も、びくともしない口角も、そのままだったけれど。
「私たち、傍から見たら、人形同士が喋っているように見えるのかしら」
「……自覚はあるんだな」
「私の場合は、パターンの問題じゃないの。心が動かないから表情に出ないだけ」
「僕もそれに近いよ」
そうかな、と三輪は、足元にいたトンボを踏みつけた。寒さのせいで弱って地面にいたのだろう、飛ぶこともせずに、三輪の靴で潰されてしまった。
ぺき、とかすかな音がした。
「三輪?」
「今、上郷くん、嫌な気持ちになったでしょう。無駄に生き物を殺した私に。でも私は、本当にこんなことでは、何とも思わないの。人として何かが欠落しているんだと思う。ごめんなさい、共感させるようなことを言っておいて」
「いいや。僕こそ、勝手にすり寄るような真似をして悪い。三輪は、僕のスカートへの気持ちを肯定してくれたのに」
そう言って僕がうなだれると、ふっ、と三輪は息を短く吐いた。
「凄い、上郷くんの顔が変わらなくても、しぐさで感情が表されている」
三輪もそうかもしれないよ、と言おうとして、やめた。
これ以上、三輪に謝らせることになるのが、嫌だった。
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