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次の日の日曜日。
三輪とは、昨日に、これも何かの縁だからと連絡先を交換していたのだけれどーーお互いに慣れていないのでなかなかに苦労したーー、午前八時にメッセージが入った。
「今日うちに来ない? 親がいるけど、よければ」
僕は一考してから、「なぜ?」と返した。
「私のスカートでよければ、穿かせてあげる。自分で選んで買うのもいいけど、試着する機会は多い方がいいと思う」
僕はイエスと返信し、少しでも清潔そうなカットソーと黒いパンツを取り出し、急いで支度をすると、アウターを引っ掛けて家を飛び出た。
母親に「あんたが無表情で息せき切っている姿は、怖い」と注意されたので、自転車で二十分ほどで三輪の家の前まで来ると、努めて息を整える。
象牙色をした四階建ての団地の二階で、表札は出ていなかったので、メッセージで送られてきた部屋番号を確認した。
インターフォンを押そうとした時、鈍いきしみ音を立ててドアが開いた。
「いらっしゃい」
三輪は、昨日と同じくらいの丈の、裾が編み上げになっている茶色いロングスカートを履いていた。ブラウス地のトップスは、制服のそれと似ているが、それよりもずっと柔らかそうで、袖や襟の刺繍が精緻だった。
「お邪魔します。……本当に上がってもいいのか」
「どうぞ」
やはり無表情のままの三輪に促されて靴を脱ぎ、短い廊下を進む。
「私の部屋は左。右が居間とか」
そう言われてふと右手に目が行くと、閉じたドアの向こうから、女の声が聞こえていた。
一人分の声しかしないけれど、妙に声量が大きいので、電話をしているのかもしれない。そう思った時、いきなりドアが開いた。
長い黒髪の、三輪に似た女の人だった。年齢から見て、姉ではなく母親だろう。
「お邪魔しています。僕は三輪さんの同級生で、上郷といいま」
「だっきに」
「え?」
「だっきに、だっきに」
「あの?」
三輪が、僕の腕を引っ張った。
「いいよ、上郷くん。私の部屋に行こう」
「でも」
「だめなの。今お母さん、だっきにしか言えない時期だから」
部屋に入ると、三輪がドアを閉めた。
「開けておいた方がいいんじゃないか」
「お母さんが、ずっとだっきにだっきに言いながら覗いてくるけど、それでもいい?」
「……聞いてもいいのか? あれが何なのか」
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