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三輪が、僕にクッションを渡しながら、
「宗教。来週まで、起きている間、ずっとだっきにって言い続ける期間らしい」
「そもそもその、だっきにって何なんだ?」
「元々は意味があるみたいだけど、知らない。聞きたくもないし」
僕は受け取ったクッションを床に敷き、その上に座った。
僕の真正面には、押し入れがある。三輪がそのふすまを、しゅっと開けた。
「うわあ……」
思わず感嘆の声が漏れた。上下二段に仕切られたその中は、上の段がクローゼット然としていて、二十枚近くのスカートが吊るされていた。
「凄い。これ、全部三輪の?」
「ネットオークションはまだ上手く使えないから、フリマのとか古着が多いけど」
「新品て高いものな」
「これも安物がほとんどだけどね。バザーとかは、中学生だとおまけしていいのくれたりする」
「どれも、安物になんて見えないな」
これはお世辞ではなかった。上質な布ではないのかもしれないが、少なくともひどく安っぽく見えるものはない。三輪の服選びが、よほど上手なのだろう。
「上郷くん、着てみたいのある?」
「履いていいのか? 本当に、僕が? ……なら、そこの、赤いのがいい」
僕は立ち上がりながら、一枚のプリーツスカートを指差した。
「いいよ。多分、上郷くんなら入ると思う。じゃ、私は後ろを向いているから」
「いや、さすがにここでは着替えられない。トイレ借りていいか?」
「私は構わないのに」
「三輪が構わないなら、尚更僕が構わなきゃいけない」
トイレは玄関のすぐ脇にあると教えてもらい、僕は赤いスカートを手にしてドアを出た。
「うわっ!?」
そこには、三輪の母親が、廊下に寝そべりながらこちらを向いて、相変わらず小さな声で何かを唱えていた。
「お母さん、大丈夫だから居間にいて」
娘にそう諭されて、母親はそろそろと居間に戻っていった。
僕はトイレで手早く下半身だけ着替え、三輪の部屋に戻った。
ドアを開け、上半身だけをその陰から覗かせる。
「……何してるの」
「やっぱり、僕のスカート姿は醜悪かもしれない」
「いいから入ってきて。早く見たい」
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