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「三輪、家を出るんだ。警察に行こう。一時ここを離れても、君を保護してくれるところだってある」
「知ってるよ。一度行ったことがあるから。でもああいうのって地域ごとに施設が決まっていて、あまり選択肢がないから、次に私が保護された場合も、同じところに行くと思うの。あそこは、もう行きたくない。お母さんといた方がまだまし、って思える場所だった」
僕は、三輪をここから逃がすには、あまりにも三輪のことを知らないことにようやく気付いた。
「……いつなんだ? 三輪が十四歳になるのって」
「それは言わないでおく。思ったより、上郷くんが私のことを気にしそうだから」
「するに決まっている」
「あなたはもっと、人に構わない人かと思っていた。スカートをあげて、それだけで終わるかなって」
「自分でもそう思う。でも、今は違ってしまった」
「上郷くん、さっき顔が赤かったのに、今は青ざめている」
誰のせいだと。
「分かった。私の誕生日の少し前になったら言う。それまでは普通に暮らしていて」
「約束だからな。……じゃ、スカートは洗って返す」
「いいよ。もうすぐ、上郷くんのものになるんだし」
結局、スカートは畳んだだけで三輪に返し、僕は彼女の家を後にした。
どうしていいかまとまらないまま、翌日の月曜日になった。
学校ではどう接していいか分からず、その日は何事もなく終わった。
僕の親や教師に相談しても、必ず警察沙汰になるだろう。三輪が嫌がるなら、それを避けて彼女を救う方法が思いつかない。
火曜日、何かしらのヒントが欲しくて、僕は放課後に三輪を校舎裏へ呼び出した。
「そういえば、殺されるって、具体的に何をされるんだ? せめて対策を練られれば」
「多分、絞殺とかだと思う。刃物は使わないような気がする。お母さんの方が体格は少しいいし、多少抵抗できたとしても、後ろから不意をつかれたら勝てる理屈がない」
確かに、三輪は母親よりもやや痩せている。
「誕生日までは本当に襲われないのか?」
「それは確実。お母さん、教義は死んでも守るから。そういえば、上郷くんて朝は早い方なの?」
「いや。いつも遅刻ギリギリまで寝てる」
「そうなのね。意外。家はどこだったかしら」
「二丁目の、芝生公園の横だけど。それが何か」
しかし三輪は相変わらずの無表情で、それには答えず、ただ小さくうなずいていた。
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