5

2/6
前へ
/38ページ
次へ
母もその時、ジッと外からチイを見てたと思う。俺は 「何?ここに用じゃないの?」 面倒臭いので、早く用件を終わらせたい。 母の店がある地域と街の空気が全然違った。 昔ながらの店舗が軒を並べ、食欲をそそる香りがそこかしこに漂う。 夕飯の準備に立ち寄る客に笑いながら接客する商店街の店員達。 サングラスをかけ、そのまま出勤出来そうな格好の母と一緒に立ち尽くすのは、凄く居ずらい。 「さっさっと入ろう」 丁度客は居なくなり、店員が女子と話し込んでる。促すと、母はハイヒールの音高らかに店に入った。 「いらっしゃいませ」 男の店員が顔を上げ、女の子も一緒に振り向く。 「園田…智美さん、いらっしゃる?」 「あ、母に用ですか?今、集金に出てます。近所なんで直ぐ戻ってきますが、携帯に…」 「待ってるわ」 母はビシャリと言いきった。 俺は店員を垣間見た。 背が高いので自分と同い年位と思ったが、近くで見ると幼い。中学生か? 店番を任される位だから、年齢の割にしっかりしてるのだろう。 いかにも夜の商売風の女性と学生服を着た男子。あちらも俺達をチラチラと見ている。 ヒソヒソ声のつもりだろうが、女子特有の声が耳についた。 「おばさんの知り合い?」 「いや、分からない」 母は店内に陳列されてる酒を見回してる。 俺は携帯を弄ってる。 気詰まりにウズウズしてた女子が突然、 「チイちゃん、私一走りしてこようか?月末だから寛太のとこでしょ?呼んでくるね!」 と言って駆け出した。余りの素早さに 「いいよ 麗ちゃん!」 という制止の声は届かない。 「名前、チイって言うの?」 母がいきなり男子に話しかけた。レジ前に立っている彼は少し戸惑った顔で 「いえ、園田智生(ともき)です。チイは愛称です」 「そう…」 母が微笑んだ。 それが、この日最初のビックリ。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加