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母もその時、ジッと外からチイを見てたと思う。俺は
「何?ここに用じゃないの?」
面倒臭いので、早く用件を終わらせたい。
母の店がある地域と街の空気が全然違った。
昔ながらの店舗が軒を並べ、食欲をそそる香りがそこかしこに漂う。
夕飯の準備に立ち寄る客に笑いながら接客する商店街の店員達。
サングラスをかけ、そのまま出勤出来そうな格好の母と一緒に立ち尽くすのは、凄く居ずらい。
「さっさっと入ろう」
丁度客は居なくなり、店員が女子と話し込んでる。促すと、母はハイヒールの音高らかに店に入った。
「いらっしゃいませ」
男の店員が顔を上げ、女の子も一緒に振り向く。
「園田…智美さん、いらっしゃる?」
「あ、母に用ですか?今、集金に出てます。近所なんで直ぐ戻ってきますが、携帯に…」
「待ってるわ」
母はビシャリと言いきった。
俺は店員を垣間見た。
背が高いので自分と同い年位と思ったが、近くで見ると幼い。中学生か?
店番を任される位だから、年齢の割にしっかりしてるのだろう。
いかにも夜の商売風の女性と学生服を着た男子。あちらも俺達をチラチラと見ている。
ヒソヒソ声のつもりだろうが、女子特有の声が耳についた。
「おばさんの知り合い?」
「いや、分からない」
母は店内に陳列されてる酒を見回してる。
俺は携帯を弄ってる。
気詰まりにウズウズしてた女子が突然、
「チイちゃん、私一走りしてこようか?月末だから寛太のとこでしょ?呼んでくるね!」
と言って駆け出した。余りの素早さに
「いいよ 麗ちゃん!」
という制止の声は届かない。
「名前、チイって言うの?」
母がいきなり男子に話しかけた。レジ前に立っている彼は少し戸惑った顔で
「いえ、園田智生です。チイは愛称です」
「そう…」
母が微笑んだ。
それが、この日最初のビックリ。
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