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俺は智生という男子の目鼻立ちをマジマジと見た。
他人の空似というには似すぎてる気がする。ふわふわした髪の毛、切れ長の目元…
彼も俺の視線に気付き見返してきた。彼の顔にも驚きが広がる。
そこへ、
「清良?」
自動ドアが開くと同時に涼やかな声が聞こえた。本日2回目のサプライズ!母の本名を口にするこの女性に、
「智美!」
母は満面の笑みで迎えた。
「久し振り…」
母と同じ位の年の女性は、軽く母を抱き締め涙ぐんでいた。母は
「良く私だと分かったわね」
彼女は言いにくそうに
「…人づてに聞いてたから」
「そう…今度自分の店を持つ事になったの。雇われママは卒業」
「おめでとう!」
真摯な瞳と真心こもった声に、母が頬を染めたのを目にした時、俺は合点がいった。何故新しい店の女の子は清純そうなタイプが多いのか。
彼女に皆似ている。年齢を経て得た雰囲気なのか元からなのか分からないが、慈愛に満ちた眼差しの聖母みたいな女性。
彼女はさっきから黙ったままの男子に
「智生、店番有難う。もう少し頼める?お母さん、お友達とお茶してくるわ。清良、時間大丈夫?」
そう言って母を伺うと同時に俺に気付き、母と俺の顔を見比べる。
「津久井幹、私の息子よ」
「!」
聖母が目を見開き口元を押さえる。
自分の息子と俺の類似に彼女も気付いたのだろう。若干青ざめてる。
「麗が寛太んちの方に行ったから、ビーンズでお茶したら?」
息子の提案に彼女は素直に頷き
「そ、そうね。積もる話もあるから静かな方が良いわね、いい?」
先刻より固い声で母に尋ねる。
「平気よ。じゃ、お邪魔しました」
母が智生に会ったのは、それが最後だった。
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