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後日もう一方の車を試乗し、降車後車体の周りを一周する。 その津久井の真剣な眼差しに、購入確定かと私は喜びを隠して見守った。 突然 「ねえ?女性にはどっちが人気?っていうか佐竹さんは、どっちが好み?」 と聞かれビックリした。 高い買い物だ。自分の好みで決めてくれと思ったが、正直に私だったらと思う先日の車の方を述べた。 「じゃ、先日の方を買います」 そう決断した津久井と購入手続きに入った。 最近、営業成績が伸び悩んでいた。だから即決に近い今回の取引で浮かれた私は、 「佐竹さんの休みは平日のみ?」 と聞かれ思わず頷き、明日が休みだと情報を洩らした。 店の定休日は水曜日と決まってたが、久しぶりに休みを付け足し連休にしたのだ。 「やっぱりサービス業は土日休みはないわね~連休?恋人とデート?」 「いえ、帰省する予定なんです」 「そう、ご実家はどこ?」 津久井から繰り出される個人的質問に、無防備に笑って答えていたのはこの頃までだった。 「今日はね~気軽な街乗りを探しに来たの」 先日はアウトドア用でしたよね。 店長の腰の低い挨拶もそこそこにいなし、津久井は私の腕を取る。 それを私は然り気無く解くと、 「女性用ですか?」 と尋ねた。 「佐竹ちゃんたらっ!私に恋人も奥様もいないの知ってるクセに~」 いつの間に『ちゃん』呼びになっているし…マジ勘弁と思う。 立て続けに即決即金で購入する津久井に対し、私の枕営業疑惑が出てる。 原因は津久井の仕草だ。肩を叩かれたり、軽く腕をとられたり、別段イヤらしいものではない。一つ一つは会話の流れや動作に付随する何気ないものだ。 おネエ言葉と相まって、スキンシップは津久井の中では意味を持たないものだとしても、上客をゲットした私を妬む者が意味を持たせる。
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