46人が本棚に入れています
本棚に追加
後日もう一方の車を試乗し、降車後車体の周りを一周する。
その津久井の真剣な眼差しに、購入確定かと私は喜びを隠して見守った。
突然
「ねえ?女性にはどっちが人気?っていうか佐竹さんは、どっちが好み?」
と聞かれビックリした。
高い買い物だ。自分の好みで決めてくれと思ったが、正直に私だったらと思う先日の車の方を述べた。
「じゃ、先日の方を買います」
そう決断した津久井と購入手続きに入った。
最近、営業成績が伸び悩んでいた。だから即決に近い今回の取引で浮かれた私は、
「佐竹さんの休みは平日のみ?」
と聞かれ思わず頷き、明日が休みだと情報を洩らした。
店の定休日は水曜日と決まってたが、久しぶりに休みを付け足し連休にしたのだ。
「やっぱりサービス業は土日休みはないわね~連休?恋人とデート?」
「いえ、帰省する予定なんです」
「そう、ご実家はどこ?」
津久井から繰り出される個人的質問に、無防備に笑って答えていたのはこの頃までだった。
「今日はね~気軽な街乗りを探しに来たの」
先日はアウトドア用でしたよね。
店長の腰の低い挨拶もそこそこにいなし、津久井は私の腕を取る。
それを私は然り気無く解くと、
「女性用ですか?」
と尋ねた。
「佐竹ちゃんたらっ!私に恋人も奥様もいないの知ってるクセに~」
いつの間に『ちゃん』呼びになっているし…マジ勘弁と思う。
立て続けに即決即金で購入する津久井に対し、私の枕営業疑惑が出てる。
原因は津久井の仕草だ。肩を叩かれたり、軽く腕をとられたり、別段イヤらしいものではない。一つ一つは会話の流れや動作に付随する何気ないものだ。
おネエ言葉と相まって、スキンシップは津久井の中では意味を持たないものだとしても、上客をゲットした私を妬む者が意味を持たせる。
最初のコメントを投稿しよう!