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1時間後、私はすっかり酔ってしまった。
車を使用した撮影という、営業とは違うことに付き合わされた前職での最後の仕事が終わった。
新しい世界に飛び込む契約をし、伯母の治療費に充てるお金の目処も付いた。
安堵した。
津久井とのやり取りに、ヤケクソで飲んだ酒が急に回った。
私は夢うつつの中で、硬い腕に体を支えられ歩いている。
「佐竹さん、しっかり」
「ハイハイ、大丈夫ですよ~」
そう返事をして、私は手のひらをヒラヒラ踊らせる。とっても気持ちが良い。
「タクシー来たから、私送ってくわ~」
人の声が遠くに近くに聴こえる。
体を押し込まれ、
「はあ、全く~いい感じに出来上がっちゃって」
座席に着いた途端酷い睡魔に襲われ、目を閉じた。
そして隣に座った人に頭を預けた。
運転手さんと二言三言話す声がして、タクシーが走り出した。
「さっ降りて」
この声は津久井?
タクシーも差程走ってない気がする。
打ち上げ会場だった場所から、私のアパートまでタクシー使ったら、恐ろしい金額と時間がかかる。
眠さと酩酊感で足元が覚束ない。よろける私を先程の硬くて長い腕に掬われる。
「…ホントどうしてくれよう」
ため息混じりの声の主と再度密着した私は、渋々重い目蓋を開ける。
津久井がいた。
茶髪にふわふわカールした髪をトップにサイドは短くカットしたヘアスタイル。
智生社長と比べて色白の肌。
背丈が私と変わらないので、目線の位置がバッチリ同じ。
その切れ長の目で見つめられていた。
腕が動き、抱え直された。
彼の腕と指は、その身長に比べ異様に長い。
度々撮影現場で見た腕組みする彼、モデルのメイクを直す彼、その際気付いた。
その長い腕と指が私を絡め取っていた。
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