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タクシーから降りた場所は、やはり私のアパートではなかった。旧い洋式家屋の前だった。 近隣は住宅街だが夜目に見える有名建築物から都会の一等地だと分かる。 「ここは?」 「俺の家」 んっ!?俺? 津久井がそう自称するのを初めて聞いた。 目を見張って彼を見つめる私に 「貴女ん家まで往復したらロスだから、いっその事ゲストルームに泊まってよ」 と津久井は顎で示した。 その先には、三方がガラス張りの温室っぽい離れがあった。 「温室?…素敵」 私はふらふらっと引き寄せられる様に、津久井の腕から離れた。 「そっ元はね。改装してキッチン以外の水回りは揃えた」 ガラス越しに中を覗くと、天蓋付きベッドが中央に鎮座してた。 「可愛い…お姫様の部屋みたい」 「気に入った?戸締まりもしっかり出来るし、食事以外の生活はそこで完結出来るよ」 まさにゲストルーム… 変な想像してた自分が恥ずかしい。 羞恥からうつ向くと、急に迫上がってきた。 「き、気持ち悪い…」 津久井が慌てて 「ちょっと待って!今開けるから」 と、ゲストルームの入り口から石畳で繋がった、母屋の扉を電子錠で開けた。 私は口を押さえ、促されるまま中に入った。 「靴は脱がなくて大丈夫。そこにシンクがあるから!」 タイル張りの土間で助かった。 直ぐ近くのシンクに手を置き、上半身を折ったが何も出てこない。 固形物は口にしてなかった。だから酔いが早かったのだ。 真後ろから冷蔵庫のドアが開く音が聞こえ、冷たいペットボトルの水が頬に触れた。 「ひゃっ!」 「酒、飲み過ぎなんだよ」 「すみません…」 「ま。良いけどね~これで佐竹ちゃんの泣き顔以外の顔見れたし~」 「…」 一気に含んだ水で濡れた口元を手の甲で拭い、申し訳なさで立ち尽くしてると、灯りが点き回りが見渡せた。
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