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私が立つ土間は細長い作りで、IH調理台シンクが一列に配置されていた。
奥には二脚の椅子と広めのテーブル。
土間の壁は白漆喰だろうか?
足元の黒タイル、銀色のキッチン調度品と相まってスタイリッシュに見える。
「上がって」
土間から一段上がった所から、津久井の声がした。私は恐る恐る
「お邪魔します」
靴を脱いで上がる。
靴を揃えようと後ろ向きに手をついた時、その肌触りに驚いた。ビロードの絨毯だ。
今時!?
居間らしき深紅の絨毯を敷いた空間を見回すと、一人がけのリクライニングチェアとサイドテーブルが置かれてる。
椅子の後ろはドアと一面の本棚、前は大きな出窓とその下のサイドボードには、高価な酒やカッティングが美しいグラスが納められていた。
「完璧お一人様空間ですね?」
「悪い?」
ネクタイを緩めた津久井が、グラスに琥珀の液体を注いだ。
「座れば?」
彼は一つしかない椅子を視線で勧める。
主を立たせたまま、客が座れない。
「ちょっと拝見しても良いですか?」
「どうぞ」
そう言うと津久井は、サイドテーブルに置いてあった小さなラジオをつけた。
クラッシックが流れる。
不躾だと思いつつ、洗練された津久井の家に圧倒される。
土間から一番遠い壁面に備え付けのハンガーラック、下部にローチェストがあった。
「TVがないんですね」
奥まで来てターンすると、横にガラスのドアで区切られたバス洗面トイレ一式があった。
息をのんだ。
これではこちらから中が丸見えだ。お風呂に入ってるのもトイレをするのも丸見えで隔たりがない。
「無駄な音が嫌いなの」
津久井が答える。
白いタイルと白い床、全てが白で統一され広く見える。明り取りと換気を兼ねてか、タイル壁の最上部に2ヶ所細い長方形の開閉口がある。外部からは見えないが…大胆な内装だ。
私が立ち尽くしてる位置で察したのか、津久井は笑いながら
「一人なんだから別に良いでしょ?開放的で」
「そ、そうですね」
私は苦笑いした。
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