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稀に伯父が帰って来ると、静かな生活に荒波がたった。
私は伯母に聞いてみた事がある。
「何故、伯父さんと結婚したの?」
伯母は、お馴染みの微笑みを浮かべ
「忘れたかった人がいるからかな…」
その答えに、思春期に入りかけだった私は物凄く納得した。それ位、2人は似合わなかった。
結果、伯母夫婦が離婚に至ったのは、伯父の女癖の悪さだ。
赴任先で色々遊んでいたのは、伯母も薄々知っていたのだろう。
だが任期満了で此方に戻って来て、同居する高校生になった私に色目を使う様になり、それが伯母の琴線に触れた。
暗い部屋の中で般若の様な顔で伯父を罵る伯母を見たのは、後にも先にもその時だけだ。
私は事なきを得たが、その時から雄を感じさせる雰囲気を纏う男性が苦手になった。
私が好きになるのは、みな中性的な顔立ちか草食系の男性ばかりだ。
だけど顔立ちがどうであれ、男は男。
彼らが雄になる一線を越える瞬間、私の中は快感より嫌悪が先に立つ。
その事は、成人してからも様々な事を相談してきた伯母にも話してない。
伯母は離婚して慰謝料を貰った。
当初、慰謝料は辞退して早々に伯父と縁を切りたかった様だが、私の精神的ダメージや将来を考えて受け取った。
又その頃、伯母の勤務先の園児が激減したのも影響してると思う。
郷里も少子化の波にのまれ、加えて隣街に託児所完備の企業や大きい工場が誘致され、人口減少に歯止めがかからなかった。
若い夫婦は住民税が安い隣街に引っ越し、園はその煽りをもろに食らった。
古くなった園舎を建て直そうにも、経営母体の教会は懐が年々先細りだ。
私自身、信者ではない。
だが伯母みたいな人がいるなら、神様の存在を信じてみようという気になる。
私にとって伯母は、そんな存在だ。
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