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「あれも可愛いわね~」 津久井は小回りが利く車種を次々と物色している。 彼が購入手続きをする際に出てくる名義人が彼個人ではなく、芸能界に疎い私でさえ憶えのある芸能事務所名義になる事から、彼の父の職業を知った。 「父もチイも私に甘いから~」 津久井の軟弱そうな台詞と真逆の強張った表情に、どの家にもある暗部を推測した。 実際ネット検索してみると、彼のの父は今をときめく俳優やアイドル等をスカウトしたカリスマだった。 審美眼があり育てるのが上手かった園田も現役を退き、経営手腕が買われ息子の園田智生が社長に就任している。 津久井との表面上の関係は、会社の取引先欄に彼のヘアメイクアップ事務所が載ってるだけだ。 余所様の家庭環境はどうでも良い。 高級車を何台も買う財力があって、置く場所に困らないなら、何台でも買ってくれというのが私の本音。 但し 「本当に街乗りに適しているか、色々なシチュエーションで試してみたいわ~」 と規定より長めの試乗等、イレギュラーな注文を私にしなければ。 先日アウトドア撮影時に使うからとスポーティーな車種を購入後、私の営業用連絡先に電話があった。 「佐竹さんの郷里って、典型的な地方都市ね~」 耳にした時、ドン引いた。 わざわざ行ったのか!?確かに前の取引時に帰省の話や都市名は言ったが… そこから津久井に対しては、迂闊な事は言うまいと誓った。気持ちが悪い。
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