拾う

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「糸だ…………上から糸が垂れている。なんでこんなところに……」 どうやら糸はゴミ袋と繋がっているようだ。 それを俺が持っているわけだから、俺も共に飛翔するのはまあ理解できる。 糸が千切れないか心配だったが、どの道俺はホームレス。 俺が一人死んだところでニュースにもならんだろうと、腹を括った。 「どこまで引き揚げられるんだ?」 暫くして、丸い円盤のある浮遊物が見えてきた。 この形は間違いない。 UFO(未確認飛行物体)だ!  UFOは実在したんだ。 まだ会社員だった頃、UFOは存在すると言ったら皆が俺を馬鹿にしてきたものだが、俺は正しかったのだ。 それざまあみろと思ったが、状況的には俺がざまあ見ている。 釣り糸のようなものは無事にUFOまで巻き取られ、俺は恐らく人類初のUFO搭乗に至った。 「おめでとうございます!」 カランカランと鐘を鳴らして俺を出迎えてくれたのは、なんと人間だった。 皆の真ん中に立っている狐顔の男はこの中で一番偉い人物らしく、緩み切った顎をだぶつかせて、にこやかに拍手している。 なるほど。 先ほど俺が聞いた金属音は、このバカでかい鐘だったわけか。 「あんたらは何だ?」 「我々は人間です」 そんなことは分かっていると言いたかったが、二重顎の話には続きがありそうだったからぐっと堪えた。 「我々は、世界中から選ばれし者としてこのUFOに乗り、日夜地球について研究を続けています。 しかし優秀な者と平凡な者両方を乗せるべきだとの意見が艦内から挙がりましてですね。 こうして無作為に人を吊り上げているのですよ」 「人を吊り上げるだと? もしかしたら死んでいたかもしれないんだぞ!」 全く神をも恐れぬ所業だ。 非人道的な行いをしている奴らが選ばれし者など、随分と笑わせてくれる。 「まあまあ落ち着いて」と、その男はたしなめてきた。 憤りを隠せない俺は、そいつに詰め寄る。 「何故ゴミ袋なんだ!? それにもっと他の方法があっただろう!」 大袈裟に両手を振り回して二重顎は笑った。 「いえいえ! ただ艦内で騒ぎを起こされても困りますから、なるべく善良な人間が良いという結論になりましてね。 どうせなら誰も拾いたくないような物を餌として、釣り糸に垂らしていたわけです。 ……しかし良かったですね。あなたが最後の一人でした」 「最後?」 「ええ、生き残る人間の」 その後、俺達の乗ったUFOが地球を去った後、地球の地殻が不安定になり、人類は滅亡してしまった。 俺は窓から新しい居住用惑星を眺めながら、ぼそりと呟いた。 「巡り巡って、俺も救い上げられたということか」
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