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自警団
『テリーヌ、テリーヌ・ジョフナー上等巡査は居るか』
赤毛の隊服女――ベラトリックスは忙しく流れる所内を見回し、強い声で周囲に呼びかけた。
教会時代の面影をわずかばかりに残した警団本部は
粗悪な煉瓦を積み上げだだけのような、ひどく古びた
建物だった。
聖像や祭壇こそ清潔に手入れされていたが、往来する隊服を着た者達とぼろ雑巾達でごった返すその様子に、信仰心は微塵も感じられない。
唯一、彼女達の装備している手甲に刻まれた子羊――ラムの紋章が刻まれた巨大な赤団旗だけが、真新しく掲げられていた。
「ふ、副団長殿! お勤めご苦労様です」
少し面長の男が、すし詰め状態の仮眠室から慌てて飛び起きた。
ベラトリックスは腕を組み不快の意をぶつけたが、男のしまったという痛恨の顔や、今にも卒倒しそうな有りさまを見てとると、それ以上の追求はあえてしなかった。
しかし、平謝りを遮って話し出したその内容は、刑罰よりも男を苦悶させた。
『上査、三番街の巡査部隊からまたから増援要請が来ている。至急、そこで寝ている隊員たちを叩き起こして準備させるように。』
「は……はい」
男の歯切れの悪い返事に、より強い言葉で返した。
『どうした、早く行け‼』
「はいっ! たっ、直ちに!」
男が急ぐのを確認すると、ベラトリックスはもう一度
周囲を見渡し、冷ややかな表情を手で覆い隠した。
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