姉貴とタツ

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姉貴とタツ

『どーすんスか、姉貴?』  簡素なテーブルに前足を突き出し、タツは尋ねた。 向かいに座る女は頭を抱えうなだれて、ときおり うめき声をあげたが、問いには答えなかった。 「……アダマ゛痛い」 『そりゃあんだけ()みゃ痛みもすンで――』 話し終わる前に、女の指がタツの顔面にめり込んだ。 『()ダダダダダっ!!』 「……ゔっさい、響く」  癖毛の間からのぞく三白眼は、目もとのクマでより えぐみを増した。タツはキャンキャンと(わめ)くのをやめ、 涙目になりながら 『これさえなきゃ……』と小さくぼやいた。 「……半分はお前の病気だろーが」  タツはテーブルに突っ伏し、顔をなでてはぐらかした。けれど卓の中央に置かれたが視界に入ると、 耳を寝かせていっそう深いため息を吐いた。 『ほんと、どぉシやしょうか』 「…………。」 「ご注文のお、お飲み物? です」  くたびれたシャツを着た店員がその場の沈黙を破った。飲み物とは言ったが、持ってきたグラスの中には 生の卵やらケチャップやら香辛料やら、それらしきものは何もなかった。  店員は、なぜこんなものを注文したのか?と怪訝(けげん)な顔をしたが、女はその態度を(とが)めなかった。 「……ありがと」  そう言った女は鼻を摘まみ、目を閉じながら上向いてグラスの中のそれを一気に喉奥へ流し込んだ。 『あ、姉貴…………』  店員と同じ様な表情をしたタツは、いつになく真面目な声で呼びかける。  女はそれを見ると少し()ねたように返した。  「……いいだろ、これが一番効くんだよ」 『いや、そうじゃなくて……金、持ってんスか?』 「…………。」 『…………。』  しみたれた酒場でひとりと一匹は互いを見合った。  苦虫を噛み潰したような顔をして――。
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