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無感情のリユニオン
同じ空の下であるはずなのに、どうしてだろうか。
肺いっぱいに吸い込む空気は、違う匂いをしていた。
緑のトンネル。
清々しい空気に混じって、古くさい埃のような匂いが、喉に絡みつく。
青い空に白い雲。眩しい太陽が、頭上に輝く。
典型的な、よく見る空模様を一瞥して、俺は言葉もなく歩き出した。
三年間通った大都市の学校を卒業して、俺は今、遠く離れた場所――育った村の地を踏んでいる。
今日まで、一度も帰ることはなかった土地。
久々の景色は、あの頃と同じ顔で俺を迎え入れた。
……良いことだと思うだろうか。それも、時と場合によるだろう。
だがこの地で、変わらないことは喜ばしいなんて言い出したら、おしまいだ。
少なくとも俺にとっては、最悪でしかない。
最悪で最低で、悪質で下劣。卑劣で邪悪で、低俗だ。
村の連中が大好きな、不変や保守がこの身に纏わりつく――ここは、過去に囚われた、未来のない場所。
俺にとって村は、大きな檻でしかなかった。後ろ指をさされ、奇異の目を向けられる監獄。
こんなところへ帰ってくるつもりは、毛ほどもなかった。
本当は、帰ってきたくなどなかった。
ただ、そう――彼女との約束がなければ、たとえ祖父母に希われようとも、戻らなかっただろう。
村を出る前にした、小さな、幼い約束。
気紛れの、子どものわがまま。
今日まで、一度も会っていない。連絡も取っていない。そんな彼女の記憶の中に、俺という人間が未だ存在し続けているかどうかも、正直怪しいところだ。
それでも、迷いながらもこうして戻ってきたのは、諦められなかったから。
卒業の報告を祖父母へするためと、自身にさえ言い訳をしながらも、帰ってきた。
見えない重りを足首に繋げて、引きずりながら戻ってきた。
想い出の中で唯一光る、たった一人の友達。
その笑顔だけを求めて。
彼女だけを、思い描いて――
ふいに、遠くに人影を見つけて下を向いた。
ぐいっと、フードを目深に被る癖は、抜けない。
大都市へ行っても、つい周りの目を気にして俯いてばかりいた。
染みついた、情けない癖。
惨めな思いをするのは、この髪が赤いから。瞳が、赤いから。
大都市では珍しくもなくなった赤は、村では忌み嫌われた。
珍しいという、ただそれだけの理由で。
他には誰もいないという、ただそれだけの理由で。
くだらない、ちっぽけな理由。
家族は皆、赤の強い茶髪だ。
少しばかり、赤が強く出ただけ。
町に住む母方の隔世遺伝だ。
ただ、それだけのこと。
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