無感情のリユニオン

1/21
前へ
/21ページ
次へ

無感情のリユニオン

 同じ空の下であるはずなのに、どうしてだろうか。  肺いっぱいに吸い込む空気は、違う匂いをしていた。  緑のトンネル。  清々しい空気に混じって、古くさい埃のような匂いが、喉に絡みつく。  青い空に白い雲。眩しい太陽が、頭上に輝く。  典型的な、よく見る空模様を一瞥して、俺は言葉もなく歩き出した。  三年間通った大都市の学校を卒業して、俺は今、遠く離れた場所――育った村の地を踏んでいる。  今日まで、一度も帰ることはなかった土地。  久々の景色は、あの頃と同じ顔で俺を迎え入れた。  ……良いことだと思うだろうか。それも、時と場合によるだろう。  だがこの地で、変わらないことは喜ばしいなんて言い出したら、おしまいだ。  少なくとも俺にとっては、最悪でしかない。  最悪で最低で、悪質で下劣。卑劣で邪悪で、低俗だ。  村の連中が大好きな、不変や保守がこの身に纏わりつく――ここは、過去に囚われた、未来のない場所。  俺にとって村は、大きな檻でしかなかった。後ろ指をさされ、奇異の目を向けられる監獄。  こんなところへ帰ってくるつもりは、毛ほどもなかった。  本当は、帰ってきたくなどなかった。  ただ、そう――彼女との約束がなければ、たとえ祖父母に(こいねが)われようとも、戻らなかっただろう。  村を出る前にした、小さな、幼い約束。  気紛れの、子どものわがまま。  今日まで、一度も会っていない。連絡も取っていない。そんな彼女の記憶の中に、俺という人間が未だ存在し続けているかどうかも、正直怪しいところだ。  それでも、迷いながらもこうして戻ってきたのは、諦められなかったから。  卒業の報告を祖父母へするためと、自身にさえ言い訳をしながらも、帰ってきた。  見えない重りを足首に繋げて、引きずりながら戻ってきた。  想い出の中で唯一光る、たった一人の友達。  その笑顔だけを求めて。  彼女だけを、思い描いて――  ふいに、遠くに人影を見つけて下を向いた。  ぐいっと、フードを目深に被る癖は、抜けない。  大都市へ行っても、つい周りの目を気にして俯いてばかりいた。  染みついた、情けない癖。  惨めな思いをするのは、この髪が赤いから。瞳が、赤いから。  大都市では珍しくもなくなった赤は、村では忌み嫌われた。  珍しいという、ただそれだけの理由で。  他には誰もいないという、ただそれだけの理由で。  くだらない、ちっぽけな理由。  家族は皆、赤の強い茶髪だ。  少しばかり、赤が強く出ただけ。  町に住む母方の隔世遺伝だ。  ただ、それだけのこと。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加