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おかしくもなんともない。
それなのに、母が若くして亡くなった原因にされた。
父が仕事優先で、家に帰らない原因にされた。
祖父母が苦労をしている原因にされた。
すべて、俺が悪いことになった。
俺が、赤毛と赤目で生まれたばっかりに――
祖父母も父も、敵ではなかった。それでも、壁を感じた。
生まれた町へ戻りたいと、子ども心に何度も願った。
だけど、子ども一人では何もできなかった。
俺は、いつだって一人だった。
しかし、彼女だけは違った。
見た目など関係なく、俺という人間を見てくれた。
たった一人、心からの笑顔を向けてくれた。
俺と、友達になろうと言ってくれた。
そんな人の、小さなわがまま――忘れられるわけがなかった。
たとえ、自分とは正反対な、遠い存在だったとしても。
卒業するまでは戻れないと言った俺に、彼女は「卒業したら会いに来て。約束」と言った。
きっと、彼女にとっては、何気ない一言だったに違いない。
だけど、俺には忘れられない約束になった。
大事な友達との、初めての約束――それだけを糧に、今日まで頑張ってきた。
忘れられていたとしても、構わない。
彼女にもらったものは、それほど大きくて、偉大だ。
その存在だけで、元気をもらえる。
こんな俺でも、癒やされ、笑顔になってしまう。
いつも人に囲まれている、大人気の聖女様。
村の代表の娘で、皆の憧れの美少女。
人懐こくて、笑顔が素敵ないい子。
こんな俺の髪と目を綺麗と言ってくれるような、美しい心の持ち主。
俺とは、釣り合わない――わかっている。
この感情が、友情じゃないことも。
叶うわけがなくても、それでも、諦めることだけはできなかった。
だから、もう一度会えたなら、それで満足だ。
彼女からもらった、優しい気持ちと想い出。
それだけを抱いて、俺は今度こそ村を出るだろう。
約束を果たし、彼女の目映いまでの笑顔を瞳に焼きつけて。
そうして、俺は檻を出る。
そのつもりだった。
「どうして、こんなことに……」
現実は、たやすく期待を裏切る。
絶望は、いつだってこちら側の隙を狙っている。
「いったい、何があったんだ……!」
三年振りに再会した、表情豊かだった心優しい少女。
だが、その面影は姿形もなく、目の前に佇む彼女は、ただ無表情にこちらを見つめるばかりの、感情を失った人形と成り果てていた。
◆◆◆
――三年前。
「俺が、祈りの歌い手に?」
祖母に呼ばれて、祖父から告げられた。
十五の夜のことだった。
「名誉なことだ。粗相のないように」
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