無感情のリユニオン

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「頑張りなさい」 「……はい」  俺が暮らす村は、近くの町に引けを取らないほどの大きな村だ。  だというのに、旧習深く、未だに民間信仰が根強い。  時代遅れもいいところだ。  俺は、いつもそう思っていた。  村の山の奥にある洞窟。そこに、封印された竜がいると信じられていた。  その竜は、ここでは神として崇められていた。  洞窟は、立ち入り禁止区域。  引っ越してきた当初は、危ないから子どもが近付かないよう方便で言っているのだと思っていた。  だが、それは間違いだったとすぐにわかった。  大人たちは、本気で信じているのだ。  竜や神が実在すると、疑いもせず口にしていた。  十歳の時だった。俺は、ただ戸惑った。  既に容姿のことで辛酸を()めていた俺が、彼らに異を唱えることはなかった。  ひたすらに、異質さを感じながら生きていた。  そんな空想の生物へ、この村では五年に一度、祈りの歌を捧げている。  竜の怒りを鎮めるためだとか、封印の力を維持させるためだとか、そんなところらしい。  選ばれる歌い手は、歌声が綺麗な十歳から成人前である十八歳の子どもたち。  ちょうど今年が、その儀式の年だった。  十歳の時は儀式後に引っ越してきたため、不参加。今回が、最初で最後の舞台だ。  どれだけ大きな家に生まれようと、歌が下手な子どもが選ばれることはない。昔、違反者のせいで災害が起きたと思われているためだ。  それからは、必ず家柄や容姿に左右されず、純粋に『歌声』が審査されるようになったらしい。  だから、自身の歌が評価されたことは、素直に嬉しかった。  なんの取り柄もない俺だったけれど、歌だけは好きだった。  歌っている時だけは、俺は自由だ。余計なことは何も考えず、本来の自分でいられる。そんな気がしていた。  歌だけでも周りに認めてもらえたと、子ども心に喜んだ。  儀式自体は、正直乗り気じゃなかった。  だけど、歌える場をもらえた。それがどんな歌でも、俺にとっては晴れ舞台だった。  それに―― 「あの子の歌が、聞ける……」  村の代表の娘である、聖女様。  この村で、彼女のことを知らない人間はいない。  綺麗な歌声は、村一番。澄んだ声は可愛らしく、透明感があって、美しいと評判だ。  彼女の歌声には人の心を癒やす力があるため、聖女様と呼ばれているのだそうだ。  そんな少女の歌を聞いてみたいと、ずっと思っていた。  彼女が、歌い手に選ばれないわけがない。  見たことはないが、会えばわかるだろう。何せ、村中の人間が慕っているらしいから。
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