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そして、その後、体調が良くなった小梅は、一見元通りになった様に見えた。
太陽が昇り切っていない様な朝から起きて山へ入り、散歩がてら朝ご飯に使える様な山菜などをとって戻って来たり、取り壊された家の跡地に赴いてその畑の雑草を抜いてみたり。
時には花を摘んできて、彩夢や俺の母親に贈り物をしたりもしてて、何だか、「今まで通り」という言葉がぴたりと合致する様な……そんな調子だった。
違っているのは、その瞳の色だけだった。
桜が散って、葉が茂る。
物の輪郭が濃くなって、蝉が鳴く。
夕陽を落ち葉が象って、金木犀が甘く薫る。
全部の命が眠りについて、そして地面は白く染まる。
凍った雪の隙間から、光を求めて希望が芽吹く、そんな春の始まりの日。
瞼の裏でちらちらと煌めく朝陽から逃れようと、布団の中に潜り込む。
自分の熱で温まった布団の中は、天国みたいにあたたかい。そんなぬくもりに身を包んで、もうひと眠り、と夢に身を任せようとした時だった。
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