紫蘭の花詞

13/24
前へ
/24ページ
次へ
「――……蘭?」 ただでさえぎりぎりの俺に、あろうことか小梅はその首をちょこんと傾げて俺を見つめる。 ああもう馬鹿なの? ねぇ、小梅、お前は馬鹿なの? 俺今お前の事襲いそうになってるんだけどそれ分かってんの? なんでそんなに可愛いんだ、最早呪いか? 俺の目は呪われてるのか? 黙ったまま脳裏上で、超高速で一人でツッコミ続ける俺に、小梅は何かを言おうとしてその桃色の唇に小さな隙間をつくる。 ちら、と可愛らしい前歯の先っぽが覗いて、 ――……もう、ちょっと、無理。 お前の所為だからな、なんて言葉が浮かんだけれど、へっぽこで意気地なしの俺の唇からそんな気障(きざ)な台詞が出て来る訳もなく、先に腕が伸びた。 小梅に触れるまで、あと、残り0.05秒。 心臓がカウントダウンをするみたいに震える。 0.04、0.03、0.02、0.01……、 俺の腕が、小梅の顎を掬い上げようとした、刹那。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加