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兄がとられたようで面白くないのか、小梅が下唇を突き出しながらそんな事をぼそっと呟いた。けれど、俺は、憧れの菫さんの前に居るのだ、言い返すことも出来ない。
菫さんは、そんな俺と小梅を見て、何を勘違いしたのかくすっと笑った。そして、その口から爆弾発言を落とす。
「小梅は蘭が好きなんだよなぁ」
目を瞬いた。言葉の意味を脳裏で処理して、理解した途端、どくんどくんと、心臓が暴れ始める。カァ、と頬に血が上る。
「は!?」
視界の端では、真っ赤になった小梅が菫さんに食って掛かっていた。それを見て、向日葵と彩夢も笑っていた。
けれど、俺には何も聞こえなかった。ただ、自分の心臓の音だけが、自分の聴覚を支配しているみたいだった。
菫さんの言葉で、気が付いてしまったんだ。
柔らかな髪に、真っ白な肌、桜の花びらみたいな唇に、長い睫毛に縁どられた大きな光を灯す琥珀色の瞳。
こんなにも、触れたいと思うのは。
こんなにも、心臓がうるさいのは。
きっと、俺が――……小梅を好きだから。
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