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「蘭?」
固まったままの俺の顔を覗き込む小梅の頬には、先ほどの朱色がまだ僅かに滲んでいて。
「小梅」
その名を、呼んだ。酷く瑞々しいその響きに、ジワリと感情が胸に滲んだ。
「?」
「……何でもない」
きょとんとした顔でこちらを振り返る小梅に、誤魔化す様にその頭をはたいた。
「痛った! もう、何すんの!」
「小梅がボケっとしてるからだろ! 口惜しかったらここまで来いよ!」
そう言って、庭から外へ駆け出した。春風に吹かれてその柔らかな髪を揺らす小梅を見て居られない程には、俺はちゃんと餓鬼だった。
初めて小梅に隠し事をした、13歳の春。
桜の花びらが、ひらひらと、舞い散っていた。
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