紫蘭の花詞

7/24
前へ
/24ページ
次へ
まさか、あんなことになるだなんて、誰が予想できただろう。 俺が小梅への想いを自覚した、その数日後。 小梅は、家族を全員失った。 父親も母親も、そして、兄である菫さんも――……殺されたのだ。 「蘭、小梅ちゃんの様子見てあげて」 俺の母親に連れられて、小梅がうちに引き取られてきた。 伽藍洞の様に何も言わず、泣くこともせず、ただひたすらに、何かを睨みつける様に虚空を見つめていた。 小梅は、凄惨な事件現場にただ独り、血塗れになって座っていたらしい。家族が殺される場面を、見てしまったのかも、しれない。 もしそうなのだとしたら、こうなるのも当たり前だと思った。 まだ餓鬼だった俺は、小梅が何処か遠くへ行ってしまった様なそんな気持ちになって、ぎゅっと唇を噛み締めた。 「小梅」 名を、呼んだ。けれど、小梅はまったく反応しなかった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加