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不謹慎だ。最低だ。最悪だ。
消えてしまいたい羞恥に駆られた俺は、目一杯の理性を総動員して、小梅から目を逸らしながらそっと畳の上にその身体を横たえる。
着ていた羽織を脱いで、枕代わりに頭の下に押し込んだ。小梅の綺麗な金髪が、一筋頬にかかっている事に気が付いて、そっと指を伸ばした。
「――……桃、」
「ッ」
小梅が、熱にうなされながら、誰かの名を呼んだ。その声の輪郭が、酷く切なくて、哀しくて。そっと、その頬に触れようと指先を伸ばした。
刹那。
「いかないで……」
懇願する様に、零された一言。
小梅の、甘い、譫言。
「…………」
触れようと伸ばした指先は、愛しい人に触れる事は無く。
行先を見失って、ただ、虚空に留まって。
如何したらいいのかなんて、分からなかった。
ただ、ぎゅう、と胸が締め付けられて、痛くて痛くて仕方が無かった。
ともすれば泣いてしまいそうな程に募った想いから目を逸らす様に、小さく笑って見せた。
けれど、滲んだ黒い感情は、重く胸に染み付いた。
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