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第十八話 身内
私は倉敷香織と一緒に、ある検査機関を訪れました。
彼女と雪音のDNA鑑定の結果を聞く為です。
メガネの中年の男性職員は一枚のプリントを倉敷香織に渡しました。
「あなたと雪音ちゃんが親子である確率は九十五パーセント以上です。親子だと断言してもいいでしょう」
帰りの地下鉄の中。
彼女の表情は憂きませんでした。
彼女の思った通り、雪音が自分の子供である事がはっきり解りましたが、まだ何かまだ引っかる物がある様です。
「香織さん。今、何を思ってるの?」
地下鉄のシートに揺られながら、彼女は答えました。
「これからどうしたらいいのか、考えてました」
「そう。あなたはどうしたいの?」
「出来ることなら、一緒に暮らしたいです」
「うん」
「でも私、今まで全然母親らしい事してないし、これからも出来る自信がちょっと……」
「子育てに不安を抱かない母親なんていないわよ」
「ああ、そうですか」
「でも、あの子はあなたに懐いているわよ。第一関門はクリアじゃないかしら」
「それと、育てる事とは違う様な気がします」
香織さんはなかなか聡明です。
今までも里親に引き取られて行った子供達は何人かいましたが、半分近くがその親とそりが合わず帰って来た事があるのです。
いえ、帰って来たのならまだいい方で、行方不明になってしまったケースすらあるのが事実です。
ある日突然『親』になるというのは、それほど大変な事なのです。
私は香織さんに答えました。
「じっくり考えた方がいいわ。これは雪音とあなただけの問題じゃない。あなたのお姉さんとか、周りの人も関係してくる問題だからね」
「そうですよね」
彼女はそう答え、コートの裾を握ってうつむきました。
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