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第一話 対面
ここは、とある児童養護施設。
様々な理由で一人では生きていけなくなった子供達を預かり、独り立ちに導いていく場所です。
私の名前は高菜凛(たかなりん)。
現在四十二歳、ここの一職員です。
そんな私が彼女に会ったのは三年前の冬でした。
雪が津々と降り始めた昼下がり。
一台のワゴン車がこの施設の前に止まりました。
そして、後ろのスライドドアが開き、一人の少女が市(し)の職員の手に引かれて降りてきたのです。
白くツヤツヤした肌に、長い真っ直ぐな黒髪。
ここに来る前に切りそろえられた前髪から見える瞳はキラキラと輝いていました。
年齢は推定十二歳と聞かされていましたが、私には十歳位にしか見えません。小柄なせいでしょうか。
センスのないオレンジ色のジャージの上下を着ていましたが、それは支給されたものでしょう。
本当にこの子が保護された子なの?
私は疑問を抱きました。
なぜなら、
大抵の『保護された子』はオドオドしていて、人を恐れている感じがあるのですが、その子は全く違いました。
まるで遊園地に行く子供の様な表情で周りの人達の顔を一つ一つ確認しているのです。
人を恐れていない様です。
彼女はキョロキョロしながら施設の玄関に入って来て、私の前に立ちました。
私は彼女の顔を覗き、軽く微笑みながら言いました。
「初めまして。私があなたの担当の高菜凛よ。よろしくね」
すると、彼女は子犬の様な真っ直ぐな目を私に向け、突然声を出しました。
「ワン!」
それは、まるで犬の鳴き声の様でした。
後で知ったのですが、それは彼女の唯一の感情表現だったのです。
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