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◇◇◇
茶封筒を鞄の奥深くに仕舞って、「さて、どうしようか」とぼんやり空を見上げた。
博人君には連絡がいっているのだろう。何度もメールや着信通知が来ていた。そのうちの一つに「もうすぐ帰る」と打ち込み、返信するとサイレントモードにして、それも鞄の奥深くに沈めた。
博人君とは6年前に結婚した。自分より2歳年下で、インテリアメーカーのデザイナーをしている。夢は独立して自分のブランドを立ち上げること。そのためにも、私の病気を治すのにお金をかけるわけにはいかない。
彼には紹介状の存在を知られたくなかった。優しい人だから、紹介状の病院に行こうと言われるに決まっている。そして治療を受けることもほぼ決まってしまうだろう。
そもそも家族に迷惑をかけたくないから黙っているのに夫に知られてしまっては意味がない。
だから私は、嘘を吐くことにした。
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