Episode-15 絶海の孤島

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Episode-15 絶海の孤島

ウィスター島へ上陸する。 その島は驚くほど人気がなく、中心部に沿って大きな山があった。 山への道は整備されているものの、住宅地らしきものは廃れ、もはや生活の跡すら見ることが出来なかった。 「ただ、人がいないってことはなさそう」 姉貴が廃れた家を見ながら言った。 「そうなんだよな...妙に道路がキレイすぎる」 アズライトらは島の散策を続ける。 しかし人は一人として見つけることが出来なかった。 「しかし...妙に古臭くないか...?」 エタルナが家を触って言った。 確かに家の構造が今と全く違う、木材だ。 王都だけに限らず、今やどの街も煉瓦の家が多い。 「島だからってわけでもなさそうだね」 ふらふぃーが言った。 アズライトがふと海を見つめる。 静かに波打つその海は、どこか平和な雰囲気を醸し出していた。 「...世界はこんな状況なのにな...」 アズライトはそうポツリと呟いた。 浜辺に腰掛けときだった。 海が大きく跳ね上がり、巨大なクジラが姿を見せた。 「!?」 アズライトはすぐさま沖に引き返す。 振り返ったときには何もなく、ただ浜辺が海に侵食されていた。 「い、今の...見た...よね...?」 姉貴が恐ろしげに3人に話した。 3人は静かにうなずく。 「だとしたら...30...いえ、50mはあった...」 どうやらこの島の厄介な物件らしい。 数十分歩いていると、とある森林に入った。 やはりここもどこか手入れされたような痕跡があった。 「まるで昔の原型を留めてるみたいだ...」 アズライトが木を見つめながら言った。 その時だった。 どこからともなく矢が飛んできた。 「!?」 矢の飛んできた方向を見つめると、一人の青年が居た。 「ん...?人間かっ?」 その青年は木から跳び降りると 「なあ、イノシシ見た?」 と問いてきた。 なんだこいつは...と思いつつも、アズライトは「見ていない」と返す。 青年は残念そうに俯くと、何処から来たのかと訪ねた。 どこからともない、島の外からだ。と答える。 青年は「いいところに連れてくよ」と言ってアズライトらを案内した。 少し不審にも思ったが、いざとなればすぐ殺せる...。 整備された道を10分ほど歩き、崖を登り切る。 そこには未だきれいな家がぽつんと一軒建っていた。 「ここだよ。島の住民は全員ここにいる。全員っていっても...3人だけなんだけどね。」 青年が扉を開けると、謎のイカが出迎えてくれた。 「黒野!黒野!オカエリ!獲物!ナニ!?」 「イカちゃん、残念だけど今日は何も取れなかったわ」 「エェ!ボク、死んじゃう!」 「大丈夫だって、まだ予備の食料があるだろ?」 「え...何これ...」 姉貴が引いた目でそちらを見る。 その時、そのイカを抱え、一人の青年が頭を下げた。 「あぁ、すみません」 「かなくん!かなくん!この人!だれ!?」 「お客さんだ、ほら戻って戻って」 かなくんがイカをなだめると、家の中へと招き入れてくれた。 「俺は黒野公平!東洋の島から来て、ここでは...3年ぐらい生活してる」 「僕はかな。皆からはかなくんって呼ばれてたよ。ようこそ、こんな辺鄙な島へ」 「イカちゃんだよ!イカちゃんだよ!よろしくね!」 どうやら騒がしすぎる...いや、異色すぎる島だったようだ。 「...あのぉ、宝玉ってご存知ですか?」 アズライトが不意に聞いた。 「ほう...ぎょく?」 その時、黒野とイカちゃんの顔が強張った気がした。 「?どうかしました?」 「いや、なんでもない。続けてくれ」 黒野とイカちゃんは勘違いだったのかその場を流した。 どうやらかなくんも知っていないようで、当て外れだったのかもしれない。ただ、探す価値は十分にありそうだ。 数時間探し回ったものの、宝玉らしき物は見当たらなかった。 しかし、エタルナが謎の宝箱を見つけた。 苔むしたその宝箱を開くと、その中には本があった。 寂れていたが、ギリギリまだ読むことが出来た。 著者は不明だったが、とりあえずその本を読んでみる。 「この島はおかしい。私以外の人は全て死んでしまった。なにかがある...なにかがいる...私ももうすぐ死ぬ...」 と意味不明な、奇妙な記述がされていた。 「...?なんだこれ...」 エタルナも不気味に思ったのかすぐに本を閉じた。 そろそろ島を出ようかという時だった。 アズライトがあることに気付いた。 「海から...出れない...!?」 アズライトが海の先へ行こうとするも、行けない。 不思議な力によって遮られてしまっている。 それを黒野に尋ねると「知らない」と言った。 仕方なく、その日はかなくんの家に泊めてもらった。 アズライトは夜中、ふと目が覚めた。 家の中を寝ぼけたまま歩き回っていると、外へ出てしまう。 外の寒さに完全に目が覚めた。 その時、とある話し声が聴こえた。 黒野とイカちゃんか... 耳を傾けると、驚愕な会話内容が聞こえてきた。 「めんどい奴らがきたな...」 「アフター様のためにも、ここで殺さなきゃ」 「いやまあでもあいつらにイカちゃんの結界は突破できないだろ」 「そうかも...でも油断はできないよ」 「今は寝てるみてぇだしな。殺してしまうか」 (殺す...?は...) アズライトは状況が全く理解できないまま、その場で立ち尽くした。 アフター側の人間か...?だとしたらかなくんも...? 何もできないまま、朝を迎える。 まだ4人は無事だった、黒野たちは何事もなかったかのようにしている。 その時、ふらふぃーが言った。 「もしかして...この島だけ時が止まってる?」 「え?」 「...いや、バカみたいな話なんだけど...。僕が昨日見つけたこの骨。恐らく数百年前にいた生物の骨なんだろう。それに海を見れば、絶滅したはずの魚が多く泳いでる。それも何故か結界の中でだ。...だから、多分...。この島だけ、何らかの影響で数百年前から時が止まった。だから家はボロボロだけど原型をとどめているし、道は整備されっぱなしだ。そもそものこと、3人しかいないのに森を整備できるはずがないんだ」 ふらふぃーが話し終えると、男はいった。 「あ~~~~~~~~~~~~~~あ。台無しだよ、全く」 ふらふぃーの喉元にその男は剣を突きつけた。 黒野だ...! 更にイカちゃんは、人間体へと姿を変えて、かなくんを縛り上げた。 アズライトが剣を取ると、黒野が睨みつけていった。 「動くなよ、動けばこいつの首は間違いなく飛ぶぜ」 刹那、黒野は蹴り飛ばされた。 すぐさま起き上がると、姉貴が短刀を構えていた。 短刀を黒野の首元に突きつける。 黒野は未だに剣を構えていた。 その距離は僅かに1mを切っていた。 「て...てめぇ...死ぬぜ...!」 「そう?やってみれば...?ただ、そんな大きな剣を一振りできないようでは...私の短刀の方が早い」 黒野の首元から血しぶきが舞い上がった。 刹那、姉貴の体が5mほど吹き飛ぶ。 「!!」 アズライトはそれを見てイカちゃんに電撃を放つ。 エタルナは黒野に立ち向かい、剣を使う暇はないと判断したか、素手で黒野を圧倒していった。 「ふらふぃーさん!」 「ボクの能力は...狂想曲...冥界から...呼び起こされる...怨念のね...!」 イカちゃんが倒れ込んだところから起き上がる。 「冥界狂想曲(レクイエム)...!」 島に謎の音楽が響き渡る。 「っ...頭がっ...割れるっ...!」 黒野とイカちゃんだけが影響を受けていない。 「黒野...イカちゃん...どうし...」 「かなくん...利用されてたってことに気付こうねぇぇぇぇぇえ!!」 黒野がかなくんを殴り飛ばした。 狂想曲がアズライトらを狂わせていく。 「俺は闇・炎を使う複合属性の持ち主、燃え上がれえええええ!!」 黒野が家を焼き払う。 「よもぎさん...風の力、お借りします...っ!」 「メローブリーズ!!!」 ふらふぃーが手を掲げると、優しげな風が吹いてきた。 狂想曲をかき消す。 黒野とイカちゃんはこれはまずいと判断したか家からの逃亡を図る。 「逃さない」 「ッ...暗殺者(アサシン)めっ...!」 イカちゃんの右足が吹き飛んだ。 「イカちゃんッ!」 黒野は鳥を呼び出し、それを使い逃亡を図った。 イカちゃんも連れて行こうとしたが、それにもたつき、アズライトの電撃によって海岸まで吹き飛ばされた。 刹那、巨大な爆発音とともに海岸からクジラが姿を現した。 すぐさま海岸へ向かうと、そこには... 半分体が吹き飛んだイカちゃんと、血痕だけが残っていた。 クジラは大きく叫ぶと、空へと飛ぶ。 クジラの通った場所には水の橋が架かっていた。 クジラは島を好き放題に破壊する。 その時、茂みから黒野が現れた。 「へっ...この島の全ての原因は俺だ...俺の幻霧(ファントム)によってな...ハハハ!あのクジラも全て俺が呼び起こした...だが見てみろ、あんなクジラは現実にいやしねぇ。そう。幻なんだよ...何もかもな...」 「そして...この俺でさえもな!」 かなくんは黒野に歩み寄る。 「かなくん...お前はこの島じゃ唯一幻じゃないやつだったか。ははは!お前こそ殺しておけばよかった!ははは!はははははははは!さあ!殺せよ!もうどうせお前らは助からねぇ!あの幻のクジラは殺せねぇ!」 クジラは大きく飛び上がると、巨大な津波を呼び寄せた。 「ウィンドウォール!」 ふらふぃーの風防御が津波を食い止める。 アズライトとエタルナはクジラへと飛びかかるも、届かない。 むしろ、ダメージが入らなかった。 姉貴は黒野の背後で短刀を突きつけている。 「どう?言いたいことは言い終わった?...私としてはすぐにあなたを楽にしてあげたいのだけれど。」 「...そうかい。確かに俺を殺せばこの島を囲う結界も、時も全て元に戻るだろうな...だがどうだ?あのクジラは消えねえし殺せない。逃げようとしてもあれを放し飼いにすればいずれ本島に被害が及ぶだけだ」 「そうか...黒野...」 かなくんは黒野の肩を掴むと 「...君は来世で善人になれることを祈るよ」 「はっ...人は善人にゃあなれねぇよ...」 黒野は笑うと、姉貴に背後から心臓を一突きされ、息絶えた。 アズライトとエタルナが、直後に浜辺に叩きつけられた。 ふらふぃーは襲い来る波を受け止めている。 「かなくんって、戦える?」 「僕は...わからない。けど...行ける気がする」 姉貴とかなくんの、鯨討伐が始まった。
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