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Episode-12 理想の奴隷
「...!?」
誰もがその状況に混乱していた。
男は振り向くと、不敵に笑う。
「久々だね、世界を救う英雄たちよ。...もう一度自己紹介が必要かい?僕は元ルノギスト兵士長、アフター・オールト。使う属性は"闇"だ」
アフターは丁寧にお辞儀した。
カガミンは壁に埋もれたまま身動き一つしない。
「お前...何を...っ!?」
よもぎが鬼の形相でアフターを睨みつける。
姉貴、エタルナ、ふらふぃー、アズライトは既に武器を構えていた。
アフターの敵対意識は明らかだ。
「いいだろう、明かそう。もう言い逃れもできなさそうだ。...これまでの襲撃は全て僕によって仕組まれたこと、要するに黒幕は僕だ」
...脳裏にすべての記憶が巡り巡った。
村を燃やし尽くし、村人を虐殺したのも、メルドの街を崩壊させたのも、ルノギストを襲撃したのも...
「全て...お前だったんだな...ッ!!!」
アズライトは怒りと憎悪で、アフターに飛びかかる。
アフターは素手で剣を受け止め、笑った。
「憎悪ッッッ!!!!良い表情だ!!!アズライトォ!!!」
アフターの闇の弾がアズライトを10mほど吹き飛ばす。
「があっ!」
アズライトはその場で倒れ込んだ。
姉貴とよもぎ、エタルナが一斉にアフターに襲いかかる。
闇の暴風を巻き起こし、3人をすぐさま吹き飛ばした。
残るふらふぃーは目の前の情景に立ち尽くしていた。
「...君は頭が冴えるみたいだからね。全部教えてあげるよ。最も...それを覚えていればだが」
アフターはふらふぃーの元へ歩みだしていった。
「襲撃も、魔物も、全ては僕の操り人形。分かるか?襲撃は全て僕が仕組んだ。...あとそうだな。ルノギストの地下道の魔物も僕が呼び寄せた」
ふらふぃーの記憶が巡りまわる。
「...地下道に誘い込んだのも...全て...」
「そ☆、作戦通りって感じかな?作戦ってわけでも...」
「ないけどさッッッ!!」
アフターが両腕を突き出し、光線がふらふぃーを突き飛ばす。
「ラーヴァガッシュ!!」
大地が燃えつくさんとばかりに火を上げた。
「...ふん」
アフターの闇の波動がエタルナを攻撃する。
「僕はね、理想の世界を作り出そうとしているだけなんだ」
アフターが闇の宝玉を片手に話した。
「...人は愚かだ。何をしても争いばかり起こす。...だからね、僕は争いのない、素晴らしい世界を作り出そうとしているだけなんだよ」
アフターがにこやかな笑顔で歩き始めた。
「だからさあ...」
アフターの顔がいきなり歪む。
両腕が脅威の変形を見せた。
「邪魔すんなよッッッッッ!!!」
邪悪なる波動が洞窟を破壊する。
その勢いはアズライトらにも影響し、全員が大ダメージを受けた。
洞窟が木っ端微塵に吹き飛ぶ。
よもぎ、エタルナ、姉貴、カガミン、アズライト、ふらふぃーが立ち上がる。
「てめ...なにを...」
「よもぎ団長。あなたには本当にお世話になったよ。だって魔物を掃討したりしちゃうんだからさ。本当に迷惑な存在で、邪魔な存在だ。今、消えてもらう」
刹那、よもぎの体が時空を裂け目のように割れた。
よもぎは全身から赤色の血を吹き出し、その場に倒れ込む。
「アッハッハッハッハ!」
「限界突破!!!」
エタルナのエクシードが、アフターに襲いかかる。
アフターはエクシードの攻撃も、全て受け止めた。
「それだ、僕は世界を理想にするため、力がほしい。その力、ぜひ僕にくれたまえ」
アフターはエタルナに右腕を貫通させた。
「ッ...!?」
そして、エタルナの全身に謎のエネルギーを巡り回す。
エタルナは鼓動が早くなり、心臓が揺れ、命の危険を悟った。
しかし、体が動かない。
「エクシード、僕のものになれ」
エタルナの心臓が一度、「ドクン」と音を立てて揺れた。
アフターは右腕を抜くと、エタルナを蹴り飛ばす。
「トライスパークッ!!!」
アズライトの雷がアフターに命中する。
「シラけるなあ」
アフターは巨大な闇の球体を作り出し、空高く飛ぶ。
「じゃあ、消えろ」
大爆発を中心部で巻き起こし、6人は遠くへ吹き飛んだ。
「はぁ...」
アフターは髪を後ろへ捲りあげると、高らかに笑った。
「アハハハハハハハ!!!ハーッハッハッハ!!!」
刹那、矢がアフターの横腹に突き刺さった。
アフターは人差し指から鎖を生み出し、ふらふぃーを拘束する。
「...ぁ...!」
「バイバーイ♫」
アフターは鎖ごと上空30mからふらふぃーを叩き落とした。
しかし間一髪、カガミンの防御魔法によって守られた。
「...手も足もでない...逃げましょう!」
姉貴が叫んだ。
よもぎは歯を食いしばり、握り拳を作った。
(まずい...あいつには...今の俺らじゃキズ一つ付けられねえ...ッ!)
アズライトが地面を叩いた。
ただ、自分の無力さを恨んだ。
ただ、黒幕の大きな力を恨んだ。
ただ、絶望だけを感じた。
アフターが地上へ舞い降りてきた。
「...逃げるのか?」
アフターがよもぎに向かって闇の光線を放つ。
「ああああああああああああああああああああああ!!」
よもぎの悲痛な叫びが夜空に響き渡る。
「よもぎぃっ!」
カガミンがよもぎのもとへ向かう。
それに向かって、アフターが闇の超音波を放ち、カガミンの足取りを止めた。
姉貴とエタルナ、アズライトとふらふぃーがアフターに向かっていくが、全て波動で退けられ、傷一つつけることができなかった。
よもぎは闇の光線に苦しみ、もがき、何も出来なかった。
「人は愚かだ。下の生物を平気で見下し、我が上だと言わんばかりに戦いを始める。僕は大嫌いなんだよ。この世界が。昔からね」
「...ふざけるなよ...」
エタルナが立ち上がってアフターを睨みつけた。
「お前の勝手な思想で世界を滅ぼしてもいいって言うのか!?」
「うるさいな。もういいんだ、人間は全て消し去る。魔物の理想郷を作り、そして僕の理想の世界を作り出す。世界は滅ぼさない、ただ、君たちが滅ぶと言ってるだけだッ!」
闇の光線の威力が強まる。
更に超音波により、誰一人身動きが取れなくなった。
「がああああああああ!」
よもぎは闇の光線により、分子レベルに崩壊し、夜空に消え去った。
「...よも...」
パーティの最強格であったよもぎが何一つできず殺られた。
憎悪に包まれる中、姉貴が立ち向かっていく。
「ギルドオーナー、姉貴...か」
「アフター...!貴様を殺す!命に換えても...!」
「...愚かな...喰え」
姉貴の足元から闇のホールが作り出される。
「姉貴ぃっ!!!」
刹那、カガミンが姉貴を突き飛ばした。
身代わりとなる形で、カガミンが闇のホールに吸い込まれていく。
骨が折れるような、悲痛な音を残してカガミンの姿は消え去った。
「アフター、どうやら僕は勘違いしていたみたいだよ」
ふらふぃーが立ち上がった。
「君は救いようのない、世界の害だ。ここで排除しなきゃいけないっ...ただ己の理想だけに囚われた、哀れで愚かな人間の一人だ!」
ふらふぃーが弓を引き絞る。
狙うは...脳天だ。
「ばかやろ...てめえも人間だろうが...っ...人間が愚かだとか、いっちょ前に語ってんじゃねえ...!」
エタルナは壁を蹴り上げ、その反動でアフターに斬りかかる。
アフターはエタルナの首元を掴み、ふらふぃーに投げ飛ばした。
ふらふぃーとエタルナは衝突し、転げ落ちる。
「...僕は...僕は人間ジャないッ...!」
憎悪に満ち溢れた顔が、悲痛なまでに叫ぶ。
「カガミンと...よもぎを...返せぇぇぇぇっ!」
アズライトの疾風迅雷も、あっさりと避けられてしまう。
「僕は世界の支配者だ...人間と同じにするな...!!」
アフターが怒りと憎悪の念で、波動を放つ。
その威力はこれまでとは比にならない程強力だった。
アズライト、エタルナ、ふらふぃー、姉貴は辛うじて生きている、そういった状態へと追い込まれてしまった。
「...おい」
7つの宝玉を持ち去らおうとするアフターにエタルナが言った。
「人間は強い。ナメてると...痛い目見るぜ」
アフターは険悪な顔をすると、エタルナに向かって歩き出した。
すると、腕を軽く素振りする。
エタルナは3mほど吹き飛んだ。
「...脆い。これが人間だ。...ふっ、人間が強いだと?...ハハハ...!」
アフターは7つの宝玉を天高く上げる。
宝玉はアフターの周りを囲み、光を放った。
「僕に...世界を支配する力を与えたまえ!!!」
アフターが豪語すると、天空に炎が迸った。
更に水が、風が、氷が、雷が、闇が、光が走る。
そしてそれが一つに集まり、アフターに直撃した。
アフターは空高く舞い上がり、ノースディンに向かい光線を放つ。
ノースディンは大爆発を起こし、一瞬にして消え去った。
「...僕は...究極生命体になった...ハハハ!」
そう言うと、アフターはどこかへ去っていった。
エタルナ、アズライト、ふらふぃー、姉貴は辛うじて生存。
しかし、カガミンとよもぎはアフターによって殺された。
宝玉は全て持ちさらわれ、更にはアフターの力は宝玉によって増幅し、もはや誰の手にも負えない。エタルナのエクシードは奪われた。
絶望的な状況の中、アズライトが目を覚ますと...
牢獄の中だった。
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