25人が本棚に入れています
本棚に追加
Episode-14 困惑の迷宮
「お前、変なやつだなあ」
「気持ち悪い、近付かないでくれ」
「弱すぎる。相手にすらならない」
昔から、陰口を叩かれ続けた。
ただひたすら、それに耐えてきた。
初めて反抗したときは覚えている。
その頃からだ、自分の力に目覚め始めたのは。
どれだけ絡んでくるうざいやつも、その力を見せつければ黙った。
ひれ伏せることだって簡単にできた、自分の力に酔った、それ以上に...自分と同じ境遇だった者を哀れに思うようになった。
そして、その思いは確固たるものになった。
「理想郷」
それを作るために、まずはルノギストで高い位を欲した。
お尋ね者ポスターの、上位の奴らを倒しまくった。
その評判は王の耳にも届き、兵士として雇ってもらうことが出来た。
次々と功績を残していき、遂には兵士長にも任命された。
そんな中、僕は自分よりも格下の魔物は全て支配できるようになった。
これを使い、手始めに辺鄙な村を破壊した。
それと同時にメルドとかいうパレードに浮かれた街も。
そして、襲撃で生き残った奴らが王都にやってきた。
まあ、いつでも殺せるからその時は放っておいた。
...僕が唯一勝てない男がいたんだ。
団長だ、何をすればあそこまで強くなれるのか理解できなかった。
どんな敵も軽くあしらった。
僕も兵士になりたての頃、やつに勝負を挑んだ...だが...
「くっ...そ...!」
「無駄だ、新兵...。いくら才能、実力があっても勝てない相手がいる。...君が強くなって、俺を退ける力を手に入れた時を...待ってる」
そういってよもぎは立ち去っていった。
...宝玉は7つ取られると面倒だからあいつらを倒した。
ただ、今になっても思い出す。
「なぜ、あの時、アズライト含む4人を殺さなかったのかと」
―塔―
アンズとシロオが、アズライトらの猛攻をしのいでいた。
エタルナの一級品の魔法と攻撃が、シロオを押して行く。
「スパークランス!」
雷の槍が生み出され、エタルナへと向かってくる。
それをアズライトが受け止め、弾き返した。
「か、雷属性・・・!」
そう、雷に雷は相性が最悪だ。
アズライトはエタルナと剣を合わせると、空高く舞う。
そして、二人の空中からの攻撃が、シロオの両端を貫いた。
アンズのレイピアという軽めの攻撃がチーカマを襲う。
しかし、チーカマの斧でその攻撃を受け止める。
背後からふらふぃーがアンズの胸元を撃ち抜く。
姉貴が僅か1秒足らずで両足、左足、耳を切り刻んだ。
アンズは全身から血を吹き出すと、その場に倒れ込む。
最後はチーカマの振り下ろした斧が命中し、真っ二つに割れた。
塔の制圧が完了し、労働者たちから歓喜の雄叫びが舞い上がった。
「エタルナ、生きててよかった」
アズライトとエタルナ、ふらふぃー、姉貴は互いに再会を喜んだ。
そして、労働者たちは我先にと牢獄から逃げ出していく。
チーカマは塔の上に腰下ろすと、ふっと息をついた。
「...2年間、囚われ続けた代償がこれだ、見合わないと思わないか?」
チーカマはアズライトを見て笑った。
「珍しい冗談だ。2年でこれだけの人を救えた、それでいいじゃないか」
アズライトもチーカマの横に腰を下ろし、笑った。
闇夜、月明かりの真下、5人は互いに月を見上げていた。
これから先のことも、全て話し合った。
まずは七星玉を取り戻し、アフターを倒すこと。
「理想郷なんて腐ったものは、絶対に作らせない」
理想郷という名の欲望の世界。
姉貴は、散っていったカガミン、よもぎの為にと、覚悟を決めた。
チーカマがふと立ち上がり、アズライトに右手を差し出した。
「また生きてどこかで会おう。待ってる」
アズライトも立ち上がり、チーカマに手を差し出した。
「あぁ」
そう言って握手を交わそうとした時...
チーカマの体に、3つの爪が貫かれた。
「チーカマッ!」
テルツキだった。塔を這い上がってきたのか・・・!
姉貴の短剣がテルツキの腕を切り落とした。
ふらふぃーがテルツキを蹴り上げ、エタルナが炎で焼き焦がす。
チーカマは刺し傷から血を流したまま動かない。
―数分後―
医療器具なんてあるはずがない。
チーカマはそのまま息を引き取った。
油断した、一瞬の油断で、一個の命が失われた...。
奪還とともに、チーカマの命が奪われた。
4人は、ふと玉座を見る。
そこに、一筋の光を放つ宝玉を発見した。
「テルツキが持っていたのか...」
エタルナが手に取ると、その玉は蒼色に輝いた。
「水の宝玉、おかえり」
どうやらアフターに力を授けた後、再び世界に散らばったようだ。
―ラドの空洞―
一行は港で孤島に向かう途中、ラドの空洞に立ち寄った。
ここには、まだよもぎとカガミンがいる気がしたから。
残骸となった空洞に、生気はなかった。
ただ4人は呆然と立ち尽くす。
ここが彼らの人生の終着点だったみたいだ。
ふらふぃーは静かに地面に手をつけた。
カガミンが飲まれた場所に、よもぎが消えた場所に。
刹那、ふらふぃーの体を風が包んだ。
突然の出来事に、誰も反応することが出来なかった。
ふらふぃーを纏う風は、やがて体内へと入り込んでいく。
「何だ...?」
その風は、やがて静かに音を鳴らした。
一筋の風が吹いた後、ふらふぃーの脳内に話し声が聴こえた。
「人の形はなくとも、属性としてなら残れるらしい。な?ふらふぃー」
聞き馴染みのある声だった。騒がしいようにも思えた。
二人いる...
「カガミン...よもぎ...!?」
「ふらふぃー?」
他の皆には聴こえていないようだった。
「僕に...」
「風属性、お前が継承してくれよ」
よもぎの姿がふと思い浮かんだ。
彼は確かにこちらに手を突き出している。
刹那、不思議な力が巡りまわった。
「...」
手をかざすと、大きな一筋の風が天へ向かって突き抜けた。
「ま、私らは風属性としてふらふぃーと一心同体になるかな」
「...あぁ」
よもぎとカガミンはそう言うと、風となってふらふぃーの中へと入った。
「...生きていたんだ...」
ふらふぃーの頬を水が伝っていく。
「ふらふぃー...今のって?」
姉貴がふらふぃーに問う。
「...ふらふぃー。ルノギストの意志を継承する者だ」
ふらふぃーが振り向いてにっこりと笑った。
その笑顔は、カガミンそっくりのようにも見えた。
また、風の威力はよもぎ譲りだ。
アズライトの雷、エタルナの火、ふらふぃーの風。
残すは、姉貴のみだが...。
―孤島への船―
「なんでいきなりこんな島に...?」
「さあ...自分でもわからない。ただ、もし宝玉が仮に飛び散ったのなら、簡単には取れないようなところにあると思って」
アズライトが海を見つめながら言った。
船は大海原を走っていく。
ふと睡魔に襲われた。
―――――――――――――――――――――
「だから、言ったんだけどな」
少女が居た。夢の中か...
また自分を夢の中で再現できている...。
「君は誰だ?何故俺の前に現れる?」
「だって、私は君だから...。君は私であって、君じゃない。私も君であって、私じゃない。...いつか辿り着いてね」
少女は無邪気な笑顔のあと、口が裂けるごとく不気味な顔を作った。
心臓が揺れた。
「こノ世界にワ裏がアる」
アズライトの耳元で呟くと、夢は終わった。
「...い!アズライト!」
エタルナに起こされ、目を醒ました。
「ったく...いきなり寝ちまうからな...ほら、ついたぞ」
アズライトが体を起こすと、そこには絶海の孤島がぽつんとあった。
なんともいえない自然の島に、しばらくぼーっとしていた。
ふらふぃーと姉貴は既に上陸しているらしい。
絶海の孤島、ウィスター島で宝玉探しが始まった。
最初のコメントを投稿しよう!