Episode-14 困惑の迷宮

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Episode-14 困惑の迷宮

「お前、変なやつだなあ」 「気持ち悪い、近付かないでくれ」 「弱すぎる。相手にすらならない」 昔から、陰口を叩かれ続けた。 ただひたすら、それに耐えてきた。 初めて反抗したときは覚えている。 その頃からだ、自分の力に目覚め始めたのは。 どれだけ絡んでくるうざいやつも、その力を見せつければ黙った。 ひれ伏せることだって簡単にできた、自分の力に酔った、それ以上に...自分と同じ境遇だった者を哀れに思うようになった。 そして、その思いは確固たるものになった。 「理想郷」 それを作るために、まずはルノギストで高い位を欲した。 お尋ね者ポスターの、上位の奴らを倒しまくった。 その評判は王の耳にも届き、兵士として雇ってもらうことが出来た。 次々と功績を残していき、遂には兵士長にも任命された。 そんな中、僕は自分よりも格下の魔物は全て支配できるようになった。 これを使い、手始めに辺鄙な村を破壊した。 それと同時にメルドとかいうパレードに浮かれた街も。 そして、襲撃で生き残った奴らが王都にやってきた。 まあ、いつでも殺せるからその時は放っておいた。 ...僕が唯一勝てない男がいたんだ。 団長だ、何をすればあそこまで強くなれるのか理解できなかった。 どんな敵も軽くあしらった。 僕も兵士になりたての頃、やつに勝負を挑んだ...だが... 「くっ...そ...!」 「無駄だ、新兵...。いくら才能、実力があっても勝てない相手がいる。...君が強くなって、俺を退ける力を手に入れた時を...待ってる」 そういってよもぎは立ち去っていった。 ...宝玉は7つ取られると面倒だからあいつらを倒した。 ただ、今になっても思い出す。 「なぜ、あの時、アズライト含む4人を殺さなかったのかと」 ―塔― アンズとシロオが、アズライトらの猛攻をしのいでいた。 エタルナの一級品の魔法と攻撃が、シロオを押して行く。 「スパークランス!」 雷の槍が生み出され、エタルナへと向かってくる。 それをアズライトが受け止め、弾き返した。 「か、雷属性・・・!」 そう、雷に雷は相性が最悪だ。 アズライトはエタルナと剣を合わせると、空高く舞う。 そして、二人の空中からの攻撃が、シロオの両端を貫いた。 アンズのレイピアという軽めの攻撃がチーカマを襲う。 しかし、チーカマの斧でその攻撃を受け止める。 背後からふらふぃーがアンズの胸元を撃ち抜く。 姉貴が僅か1秒足らずで両足、左足、耳を切り刻んだ。 アンズは全身から血を吹き出すと、その場に倒れ込む。 最後はチーカマの振り下ろした斧が命中し、真っ二つに割れた。 塔の制圧が完了し、労働者たちから歓喜の雄叫びが舞い上がった。 「エタルナ、生きててよかった」 アズライトとエタルナ、ふらふぃー、姉貴は互いに再会を喜んだ。 そして、労働者たちは我先にと牢獄から逃げ出していく。 チーカマは塔の上に腰下ろすと、ふっと息をついた。 「...2年間、囚われ続けた代償がこれだ、見合わないと思わないか?」 チーカマはアズライトを見て笑った。 「珍しい冗談だ。2年でこれだけの人を救えた、それでいいじゃないか」 アズライトもチーカマの横に腰を下ろし、笑った。 闇夜、月明かりの真下、5人は互いに月を見上げていた。 これから先のことも、全て話し合った。 まずは七星玉を取り戻し、アフターを倒すこと。 「理想郷なんて腐ったものは、絶対に作らせない」 理想郷という名の欲望の世界。 姉貴は、散っていったカガミン、よもぎの為にと、覚悟を決めた。 チーカマがふと立ち上がり、アズライトに右手を差し出した。 「また生きてどこかで会おう。待ってる」 アズライトも立ち上がり、チーカマに手を差し出した。 「あぁ」 そう言って握手を交わそうとした時... チーカマの体に、3つの爪が貫かれた。 「チーカマッ!」 テルツキだった。塔を這い上がってきたのか・・・! 姉貴の短剣がテルツキの腕を切り落とした。 ふらふぃーがテルツキを蹴り上げ、エタルナが炎で焼き焦がす。 チーカマは刺し傷から血を流したまま動かない。 ―数分後― 医療器具なんてあるはずがない。 チーカマはそのまま息を引き取った。 油断した、一瞬の油断で、一個の命が失われた...。 奪還とともに、チーカマの命が奪われた。 4人は、ふと玉座を見る。 そこに、一筋の光を放つ宝玉を発見した。 「テルツキが持っていたのか...」 エタルナが手に取ると、その玉は蒼色に輝いた。 「水の宝玉、おかえり」 どうやらアフターに力を授けた後、再び世界に散らばったようだ。 ―ラドの空洞― 一行は港で孤島に向かう途中、ラドの空洞に立ち寄った。 ここには、まだよもぎとカガミンがいる気がしたから。 残骸となった空洞に、生気はなかった。 ただ4人は呆然と立ち尽くす。 ここが彼らの人生の終着点だったみたいだ。 ふらふぃーは静かに地面に手をつけた。 カガミンが飲まれた場所に、よもぎが消えた場所に。 刹那、ふらふぃーの体を風が包んだ。 突然の出来事に、誰も反応することが出来なかった。 ふらふぃーを纏う風は、やがて体内へと入り込んでいく。 「何だ...?」 その風は、やがて静かに音を鳴らした。 一筋の風が吹いた後、ふらふぃーの脳内に話し声が聴こえた。 「人の形はなくとも、属性としてなら残れるらしい。な?ふらふぃー」 聞き馴染みのある声だった。騒がしいようにも思えた。 二人いる... 「カガミン...よもぎ...!?」 「ふらふぃー?」 他の皆には聴こえていないようだった。 「僕に...」 「風属性、お前が継承してくれよ」 よもぎの姿がふと思い浮かんだ。 彼は確かにこちらに手を突き出している。 刹那、不思議な力が巡りまわった。 「...」 手をかざすと、大きな一筋の風が天へ向かって突き抜けた。 「ま、私らは風属性としてふらふぃーと一心同体になるかな」 「...あぁ」 よもぎとカガミンはそう言うと、風となってふらふぃーの中へと入った。 「...生きていたんだ...」 ふらふぃーの頬を水が伝っていく。 「ふらふぃー...今のって?」 姉貴がふらふぃーに問う。 「...ふらふぃー。ルノギストの意志を継承する者だ」 ふらふぃーが振り向いてにっこりと笑った。 その笑顔は、カガミンそっくりのようにも見えた。 また、風の威力はよもぎ譲りだ。 アズライトの雷、エタルナの火、ふらふぃーの風。 残すは、姉貴のみだが...。 ―孤島への船― 「なんでいきなりこんな島に...?」 「さあ...自分でもわからない。ただ、もし宝玉が仮に飛び散ったのなら、簡単には取れないようなところにあると思って」 アズライトが海を見つめながら言った。 船は大海原を走っていく。 ふと睡魔に襲われた。 ――――――――――――――――――――― 「だから、言ったんだけどな」 少女が居た。夢の中か... また自分を夢の中で再現できている...。 「君は誰だ?何故俺の前に現れる?」 「だって、私は君だから...。君は私であって、君じゃない。私も君であって、私じゃない。...いつか辿り着いてね」 少女は無邪気な笑顔のあと、口が裂けるごとく不気味な顔を作った。 心臓が揺れた。 「こノ世界にワ裏がアる」 アズライトの耳元で呟くと、夢は終わった。 「...い!アズライト!」 エタルナに起こされ、目を醒ました。 「ったく...いきなり寝ちまうからな...ほら、ついたぞ」 アズライトが体を起こすと、そこには絶海の孤島がぽつんとあった。 なんともいえない自然の島に、しばらくぼーっとしていた。 ふらふぃーと姉貴は既に上陸しているらしい。 絶海の孤島、ウィスター島で宝玉探しが始まった。
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