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Episode-18 全てお前のせい
「どういう...こと...だ?」
あまりにも情報量が多すぎて困惑している。
「君の力、悲劇は君の周りの人間を悲劇へと導く。そしてあなたは、それに対抗する唯一の手段。つまり、君は自ら呼び出した悲劇に、自ら戦わなきゃいけない、矛盾した運命を辿る人間なんだ」
少女はそう言って無邪気に笑い、歩き出した。
「...アフターは、あなたに会ってからおかしくなった。エタルナは、あなたに会ってからおかしくなった。ふらふぃーも、姉貴も、かなくんも運命を狂わされた。ふらふぃーと姉貴は故郷を、かなくんはあなたによって大切な親友に裏切られた。あなたがあの島に行かなければ、イカちゃんと黒野は悲劇に触れずに、かなくんと暮らし続けれたかもしれない。エタルナはただ冒険をしていただけなのに、メルド襲撃であなたと会ってから、悲壮な戦争に巻き込まれてしまった」
アズライトは無空間の中、一人絶望に明け暮れていた。
全ては...自分のせいだったのか?
確かに自分がアフターと接触してから、襲撃が急増した。
ウィスター島も、自分が行った直後にあの襲撃が起こった。
思い返せば、多くの出来事には自分が関わっていた。
「この悲劇の連鎖を止める方法は2つある」
少女はしゃがみこんでアズライトの顔を覗き込み言った。
「あなたが死ぬか、世界を滅ぼすか」
いつの間にか、アズライトの瞳には涙が映っていた。
「...天藍石の石言葉は"静寂"。文字通りあなたは世界をずーーーっと静寂に包ませてればいいんだよぉ。そうすれば誰も悲劇に苦しむことはなくなる。」
「...俺は...」
アズライトは再び立ち上がると、少女に向かって剣を突きつけた。
「...俺は、変えてみせる。悲劇も、全て」
「...へぇ」
少女は不敵な笑みを浮かべると、不意に現実世界へと意識が戻った。
ドラゴンは頂上で暴れまわっている...。
悲劇...か。
てっきりアフターが理想郷を作るだのどーだのほざいていたが、一番の爆弾は俺だったみたいだ...。
アズライトは半ば呆れたように笑い、立ち上がった。
そして天高く手を広げる。
空が大きく割れ、亜空間から剣が舞い降りてきた。
「俺は、俺の罪を自ら滅ぼそう」
剣をドラゴンに向け、大きく構える。
「断罪の剣、開放」
巨大な剣は、禍々しいオーラを放っていた。
天候は大荒れし、ドラゴンは少し後退りした。
「これは、俺の罪滅ぼしだ...悲劇に、報いを」
アズライトが大きく剣を振り払うと、紫電が竜に襲いかかる。
断罪の剣を持ち、天に掲げると、空がくっきりと割れ、割れ目から闇の渦が生まれ、ドラゴンに向かって一筋の光線を放つ。
「グオオオオオオオオオ!!」
「紫電閃光!」
アズライトの俊足攻撃が、ドラゴンの両翼を引きちぎる。
「俺が招いた悲劇...それを全て...消し去ってやる!」
アズライトの全身が紫電に包まれ、大きく輝いた。
足元が崩落し、断罪の剣が美しく、なお禍々しく輝く。
断罪の剣のオーラが、ドラゴンの半身を吹き飛ばす。
「ぁぁぁぁあああ!」
叫び声とともに、ドラゴンを消し炭にした。
断罪の剣から放たれる威力は、裁きの塔を揺るがした。
魔物はその異常なオーラから、塔から逃げ出していく。
そして...
ふらふぃーが、目を醒ました。
「んぁ...」
重々しい体を持ち上げる。
その時、背筋が凍った。
アズライトから、何者でもない邪悪なオーラが出ていたから。
右手に握る、巨大な剣と、目の前に広がる血の海。
ドラゴンは、「罪滅ぼし」の犠牲となってしまった。
ふらふぃーは、アズライトに声をかける。
「ふらふぃーさん」
アズライトは良かったと安堵するように息をついた。
姉貴、かなくん、エタルナも意識を取り戻し、アズライトに駆け寄る。
その時、火の宝玉がドラゴンの死骸から浮かび上がってきた。
それをエタルナが拾い上げ、鞄へと入れる。
火、風、水、氷。
これにて、世界に散りばめられた宝玉が4つ集まった。
―その後―
アズライトは、これまでと変わった。
能力「断罪の剣」を使い、ただひたすらに魔物を倒し続けた。
エタルナらは、それを不審に思い、また頼もしく思った。
徐々に口数は減っていき、エタルナらと離れているような気もした。
最後に話したのは...あの時だったか。
「俺の中に眠っていた、少女の正体は俺の能力"悲劇"を具現化したもの。...俺と接触したものは悲劇に囚われる。...姉貴も、かなくんも、ふらふぃーさんも、全部俺のせいで故郷が悲劇に見舞われた。俺が孤島に行かなければ、かなくんはどうってことなかったんだ。姉貴も、ギルドを、仲間を失わずに済んだ。...そうだ。最初から、俺なんて要らなかったんだよな...」
己の能力に絶望し、先の見えない未来に困惑していた。
その時は、エタルナがアズライトを宥めた。
「その少女とやらの言ってることが、本当だとは限らないだろ」
アズライトは、自らの罪滅ぼしだ、と言い続けた。
―――――――――――――――――――――――――
「ツミ...オモイツミ...重い...罪...」
「悲劇は...終わらナイ...アハ...悲劇ヲ...モット...モット、世界ヲ、静寂二、包み込んデ、ヤレ...」
雨の降る、謎の高台に、アズライトと少女が二人居た。
「もう...いいだろ!お前は、なんで俺の前に現れる!?」
少女に、アズライトが問いかける。
少女は高台から何かを見つめたまま、言い続けた。
「罪を滅ボス...為に...コロセ...ホロボセ...」
「アハハハハハハ!!!」
少女は闇夜の夜空に、大きく、高々と笑い声を響きあげた。
「おいっ!」
アズライトが少女の肩をぐっと掴む。
少女は振り返り、不気味な笑顔で話した。
「...ダンザイ、ヒゲキ、セイジャク」
少女はアズライトにぐっと顔を近づける。
「...ヒゲキを終わらす二ワ、あナたガ死ね」
「ヒゲキ」
「ヒゲキ」
ヒゲキ
ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ
ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、
ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ、ヒゲキ
「うわあああああああああああっ!」
アズライトは大声で叫び、ベッドから起き上がった。
それと同時に、ふらふぃーがアズライトに駆け寄る。
「だ、大丈夫...?」
エタルナ、姉貴、かなくんも駆け寄った。
「アズライト...どうした?」
エタルナの深刻な表情を見て、アズライトの心が沈む。
着実に、「自分」が「罪」へと変わっていくような感じがした。
アズライトは、苦し紛れに、涙声で言った。
「いや...な...夢をみた...だけだ」
――――――――――――――――――――――――
その日の夜は、やけに静かであったことを覚えている。
裁きの塔での出来事以来、アズライトには常に謎のオーラが漂い始めていた。それは、ラドの空洞でのアフターを呼び起こさせた。
アフターとはまた別の、闇のオーラ。
アズライトが急に叫びだした時は本当に焦った。
あの直後に、エタルナ、かなくん、姉貴と僕の4人で話し合った。
「アズライトとは、結局何なのか、と。」
エタルナが宿屋のベランダに姿を現し、話しかけてきた。
「...アズライトとは、生まれてからずっと一緒にいる。同じ村だったし、襲撃された時に生き残ったのも何かの縁なのかもしれない。」
ふらふぃーは俯いた。
エタルナはふぅと息を吸うと、ふらふぃーに話した。
「アズライトが、どんな選択をしようと、俺は止めない。世界を滅ぼそうが、自ら命を絶とうが...」
ふらふぃーは、え?と言った表情でエタルナを見つめた。
「俺達の目的はアフターを殺して、理想郷を作るのを止めることだろ。今ここで先の見えなくなったアズライトを救う手立てを見つける暇はないし...それに、奴の囚われてる闇が深すぎるよな...」
エタルナが若干悲しそうな表情をした。
その裏で、姉貴とかなくんが二人の会話を聞いていた。
「アズさん...どうなっちゃうのかな」
かなくんが心配げに呟いた。
「私にも分からない。けど...多分、一番良い選択をしてくれると思うよ。私達は救う事はできないし、彼の真相を知ることも不可能。だから...彼は、彼なりの苦労をした末に、ベストの選択をする、ずっと旅してきたから分かるよ...私にだって、それぐらいは」
姉貴は上を向いて話していた。
不意に頬に涙が流れてくる。
アズライトはその横、静かに寝息を立てて眠っていた。
―――――――――――――――――――――――――
「ゴッド...クランクッッッ!!」
巨大な放電が、巨大蟹を木っ端微塵に打ち砕いた。
断罪の剣で全ての腕を切断した末のトドメだった。
巨大蟹は、闇のオーラが消え去った後に光の宝玉を落とした。
「...」
アズライトは光の宝玉を拾い、再び歩いていった。
エタルナらはそれを見つめることしか出来なかった。
「あとは...闇と雷。闇のオーラを放つ魔物は多くがアフターに操られている魔物だから、それを積極的に倒していこう」
ふらふぃーが今やパーティの司令塔だ。
アズライトは今ではほとんど喋ることがなくなってしまった。
ただ一人、全ての闇を抱え込んで...。
ただし、戦闘状態に入ると人が変わるように暴れまわった。
まるで、何かに取り憑かれているかのように。
とにかく、エタルナ達はアズライトを守り続けた。
信じてきたものだから、信じたいものだったから。
「...ごめん」
アズライトが呟いた。
それは絶対に全員に聞こえていた。
そして、巨大なトロールから闇の宝玉を、雲状の怪物から雷の宝玉を手に入れた。
アズライトらが全ての宝玉を天へ掲げると、七星玉は大きな孤を描き、光をつなぎ、火を吹き、雨が降り、風が吹き、大地が震え、雷が落ち、暗黒の夜空へと全てをいざなった。
刹那、七星玉が全て木っ端微塵に粉砕された。
空に浮かび上がる、見上げたことのある姿。
「...!!アフター...オールト...」
姉貴は遠目に見える、アフターの姿を見て憎悪を覚えた。
「七星玉を集められちゃったかあ...あははっ!でもね、僕ほどの力であれば七星玉ごとき、破壊することなんて簡単なんだ...」
エタルナの炎弾と、かなくんの水の光線がアフターを襲った。
「あの日の出来事、一日たりとも忘れたことねぇぜ...?なあ?理想郷を作る、世界の悪の根源よ」
アフターはふっと笑うと、巨大な闇のホールを作り出した。
「お話は僕の家でしよう」
「!まずいっ!カガミンを飲み込ん」
ふらふぃーの忠告届かず、5人全員がホールに飲まれた。
――――――――――――――――――――――――――
「う...ここは...?」
ふらふぃー、かなくん、姉貴だけが部屋に閉じ込められていた。
「ふらふぃーさんが起きたよ」
どうやらかなくんと姉貴は既に目を醒ましていたようだ。
「どうやらアフターの本拠地みたいね...。この程度の部屋なら魔法を組み合わせて簡単に突破できそうだけれど...アズライトくんとエタルナさんがいないのが...」
ふらふぃーに嫌な予感がした。
――――――――――――――――――――――――――
目を醒ました時、謎の個室に鎖で四肢の自由を奪われた状態だった。
その目の前に、アフターが煙草を吸いながら一息ついて言った。
「エタルナ、君の命はここで今終わる」
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