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Episode-2 炎舞
まさか、俺の村に限ってそんなことないはずだ。
なにかの間違いであってくれ―――。
ただひたすらに村へと走り続けた。
血反吐を吐きながらも、足がもつれながらも。
しかし、そんな僅かな希望も絶望に変わる。
「―――くそっ!」
数時間足らずで村に辿り着くも、時すでに遅し。
山の最下層からでもわかる。村が、火の海になっていることぐらいは。
その時、アズライトを呼ぶ声が聞こえた。
火の粉散る山の中、一人の男が山を下ってきた。
見れば全身に傷を負っている。命からがら逃げ出してきたのだろうか...。
「アズライト!!」
「ふ、ふらふぃーさん!?これは...」
「村が襲撃された!いきなりだ...もう村は無理だ!とにかく街へ逃げるんだ!...メルドの街、あそこなら大丈夫だろう!」
ふらふぃーはアズライトの手を引くかのように走り出した。
しかし・・・
「だ、ダメです...ふらふぃーさん...」
「え?」
「...メルドも襲撃されました...」
ふらふぃーの足が完全に止まった。
何かの冗談だろう、ふらふぃーは苦笑いをこぼした。
「...あぁ、それはなにかの...悪いジョークかな?」
「ジョークでもなんでもないです。メルドは襲撃されました。パレードの真っ最中に、魔物が正門を破って来たんです...」
「...最悪だ」
ふらふぃーが頭を抱えて座り込んだ。
アズライトも俯いたまま、顔をあげれない。
「ここから最寄りの街までは...メルドを除けば15kmはある...。果たして疲弊してる僕たちが魔物に一切襲われることなく街までたどり着ける保証なんてあるのか...?」
アズライトは荷物を全てメルドに置いてきた。
戦う術もなければ、生き残るための必需品の一つすらない。
8km近い道のりをノンストップで走り続けてきたアズライトは限界だ。
それにふらふぃーも襲撃と先の見えない絶望で精神を保つのがやっとだ。
街を出る頃は沈みかけていた日も、今や光を放ってすら無い。
真夜中の道を照明もなく歩くのは到底不可能に近い...。
アズライトとふらふぃーは、行く宛もなく歩き始めた。
ここに居れば殺される、そんなことは火を見るより明らかだった。
真夜中、いつ魔物が飛び出すかもわからない。ましてや襲撃された村の付近だ。いつどこで遭遇してもおかしくはない。
1kmほど歩いた頃合いだろうか。
歩く先の道から光が来るのが見えた。
「あれは...?」
ふらふぃーとアズライトは足を止めた。
光の正体は松明であり、先から向かってくる姿には既視感があった。
「あの人は...確か...」
「?アズライト、知り合いかい?」
「俺の...恩人かもしれないです」
馬を2頭連れてやってきたのは、赤色のコートを身に着けた青年だった。
「無事だったか」
間違いない、メルドで魔物を掃討したあの男だ。
「...教会に避難していた人たちは全員逃げれた。恐らく向かう先は...王都ルノギストだ」
やけに落ち着いた口調で淡々と話す。
「ふぅ、俺たちも王都に向かうぞ。馬に乗れ」
「えぇ?」
ふらふぃーとアズライトが揃って声をあげた。
「メルドもお前たちの村ももうだめだ。ルノギストなら...安全だろう」
言われるがまま、アズライトたちは青年に付いて行った。
アズライトには、この青年といると妙な安心感があった。
それはふらふぃーとて同じだっただろう。
数時間走らせた後、小さな林に馬を泊まらせた。
「流石に馬もお前たちも疲れ切っているな...無理もない、今日はここで休むとしようか」
青年は馬から降り、周りに魔物がいないことを確認する。
「よし、火を付けるぞ」
青年は落ちていた枝を手に取り、中心部に雑に集めると右手の人差し指から小さな炎を生み出した。
「!?」
ふらふぃーとアズライトが驚きを隠せない。
これが俗に言う「マジック」というやつなのだろうか。
「見たこと無い、って顔してるな」
ふらふぃーとアズライトは開いた口が塞がらなかった。
青年は火を枝に付けた後、指先から放たれている火を消した。
「まさか...火の海になった街を苦にせず駆け巡れたのって...」
「察しが良くて助かるな。間違いなくこの力のおかげだ。」
「え?え?」
「あぁ、ふらふぃーさんは知らないか...。」
―アズライトはふらふぃーに事の経緯を説明する―
「はは...聞けば聞くほど現実味がなくなる話だね...。つまり...こうだ。君は炎を自由自在に生み出せるし、その影響も受けやしないってこと?」
「けど俺も人間だ...まあ、仮に"俺を上回る火の力の持ち主"からの攻撃なのであれば影響は受けるかもしれない」
焚き火で暖まる一行。不意にふらふぃーが口を開いた。
「そういえば、まだ君の名前を聞いてなかったような」
(そうだ、まだ聞いてなかったな...)
「まだ教えてなかったか」
「エタルナだ、今後とも宜しく頼むよ」
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