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Episode-4 討伐任務
―王都ルノギスト 掲示板―
「あ、エタルナ」
「起きたか、アズライト」
エタルナは木の掲示板を凝視していた。
「これは?」
「これは王都の"お尋ね者ポスター"と呼ばれるモンだ。まあ、簡単にいえば巷を騒がせてる魔物を討伐すれば報酬をやるぞ、ってとこか」
掲示板には紙がびっしりと張り巡らされていた。
「ここ最近は治安も良くないらしい」
「ここから先、通貨というものは絶対に必要になってくる。それで多少のリスクはあれど手っ取り早く稼ぐっていうんなら、これが最適だ」
「他の方法は?」
ふらふぃーが聞いた。
「働くぐらいしかねぇな。魔物の持ち物やらを売るっていう手もあるが、効率が悪すぎる。それに俺らのような放浪者が街に留まって働き続けるなんてキツイものがある」
「は、はぇ...」
「まあ...百聞は一見にしかずだ。まずはこれだな...」
エタルナは掲示板の紙を剥がすと、アズライトらに見せた。
その紙には「ディープゴブリン討伐」と書かれていた。
「まずは冒険者の拠点地でもある"冒険者ギルド"に行ってみるか」
―冒険者ギルド―
「あら、エタルナさんいらっしゃい!」
「姉貴、この二人が新人のアズライトとふらふぃーだ。登録を済ませておいてくれないか?」
「へぇ、これまた生きのいい子が入ってきたねぇ!任せて!」
アズライト一行はギルドの席に腰を掛けた。
「あの...彼女はどなたで?」
「ああ、この冒険者ギルドのオーナーだ。皆から姉貴と慕われているよ」
「へぇ...それにしても結構人がいるねぇ」
ふらふぃーが辺りを見回しながら呟いた。
ギルド内の賑わいは確かなもので、様々な装備や顔立ちをした者が集っている。まさに"冒険者の拠点"と言うに相応しい場所だ。
「まあ、冒険者が最初に訪れるって言えば通りが良いかな。よし、10分もしたら出るぞ。目指すはゴブリンの巣だ」
エタルナは席から立ち上がると、カウンターのほうまで歩いていった。
「巣って...大丈夫かな...僕たち...」
「わ、分からない...でもまあエタルナがいれば...?」
ふらふぃーとアズライトから冷や汗が垂れた。
戦闘経験豊富なエタルナとは違い、経験値というものが全くないアズライトとふらふぃーに、いきなりのお尋ね者討伐はレベルが高すぎたか...
――ルノギスト平原――
「ここから東に3kmぐらいかな」
ふらふぃーは地図を広げながら歩いていく。
なるべく軽装で、逃げる時はすぐ逃げれるように。
「ゴブリンはたしかに好戦的な魔物ではあるが、人間の驚異かと言われれば否だ。ナタの降る速度は異常に遅いし、鈍足だし、しかも使ってる武器が古すぎて殺傷能力が良いかと言われても頷けやしないんだ。そうビビるなよ」
エタルナがアズライトとふらふぃーにそう話した。
「でもやっぱ怖いなぁ...ディープゴブリンってその長でしょ?」
ふらふぃーが苦笑いを浮かべて言った。
「まあ、いざとなれば逃げろ。全力疾走なら逃げれるはず」
「最も、それまでに足が残っていればだけどな、ハッハッハ」
エタルナの不安を煽る発言に、二人が凍った。
「...そんな心配するなよ、冗談だ冗談...ん」
道中に焚き火の跡を見つけた。
どうやらつい先日あたりに、冒険者が通ったようだ。
「でもここは王都から1kmもないよな、ここで休む必要性って...」
アズライトが不意に発した。
「...分からん。夜が苦手だったのかもな」
エタルナは再び進行方向に向かって歩き出した。
幸いにも、道中では魔物に遭遇すること無く目的地に着いた。
「ここだ、ゴブリンの巣はな」
山の麓にぽっかりと開いた小さな穴。
その先には若干の灯りと、不気味な笑い声が聞こえた。
これがゴブリンの住処、初めて魔物の住処を見た。
ここで怖気付くか・・・。
それと同時にエタルナが洞窟に入っていった。
「ほら、来いよ」
エタルナが手招きするがまま、二人も洞窟へ潜入。
ところどころに張り巡らされた蜘蛛の巣や、露出する鉱石。
「自然」が生み出した住処と言う他無い。
「こんな質素な洞窟でも奴らには"良い住処"らしいな。本当に魔物の感性には頭が悩まされるよ...」
エタルナは苦笑いしながら言った。
その時、洞窟の奥から気色の悪い笑い声と共に、ゴブリンが5体ほどやってきた。どうやら既に戦闘態勢に入ってるみたいだ。
「おっと...やっこさんが来たみたいだぜ。」
エタルナは背中の剣を抜き、正眼の構えをとった。
ふらふぃーは王都で購入しておいた弓を手に取る。
アズライトも片手剣を手に取り、身構えた。
「キェェェェェェ!」
奇声を発しながら向かってくるゴブリン。
まずは先頭の一体の両足をエタルナが切断すると、続くゴブリンはアズライトが倒し、横にいたゴブリンも蹴り上げ刺し殺す。
更にふらふぃーの射撃が命中し、4体目も倒す。
最後はエタルナの炎攻撃が5体目を焼き尽くした。
「まあ、ゴブリンは所詮この程度だ。何の問題もないだろ?」
「ああ、まあ...」
ふらふぃーがまだ自信なさげに答える。
その後もアズライト一行は、度々遭遇するゴブリンも難なく退けながら先へ先へと進んでいった。
「!!伏せろ!」
エタルナが叫んだ。
刹那、矢が壁に突き刺さる。
「矢!?」
「弓持ちのゴブリンも居たか...近付けねーな...」
エタルナが壁沿いから様子を見る。
「この距離じゃあ俺の火も届かないだろう...ふらふぃー」
「僕の弓で...?」
「ああ」
ふらふぃーは少しの沈黙から
「分かった」
と答えた。
「予め弓は引き絞っておけ。すぐに発射できるようにな...」
ふらふぃーは限界まで弦を引いた後、僅かに身を乗り出す形で弓持ちのゴブリンと臨戦態勢に入った。
コンマ数秒の差、ふらふぃーの弓から矢が放たれる。
弓持ちゴブリンの放った矢はアズライトの咄嗟に差し出した剣に突き刺さる形で止まり、ふらふぃーの矢は弓持ちゴブリンの頭部に命中。
狙撃手対決は、ふらふぃーに軍配があがった。
「ふぅ...よかった」
ふらふぃーは一息つくと肩の力を抜いて笑った。
「ふらふぃーさん!よかった!」
アズライトも歓喜の声を上げた。
その後は戦闘にも慣れてきたか、序盤とは打って変わってのハイペースで洞窟内を攻略していき、遂に最深部まで到達した。
―ゴブリンの巣窟 最深部―
「グゲ...ゲゲゲ!」
全身が紫色に包まれたゴブリンが、最深部ででかでかと座っていた。
「ゲゲゲ!ゲゲゲ!」
ゴブリンの親玉、ディープゴブリンだ。
「一筋縄では行かねぇようだからな」
エタルナはそう言うと、剣に炎をまとわせた。
「炎の剣、こいつでいくぞ」
「まだそんな力隠し持ってたんだ...じらさずに最初から使えば良かったのに」
アズライトが苦笑する。
「ゲッ!」
ディープゴブリンが飛び上がっての攻撃を仕掛ける。
アズライトがその攻撃をなんとか片手剣で受け止めた。
その横からふらふぃーの射撃が命中する。
更に背後からエタルナの炎の剣がディープゴブリンを切り裂く。
「ギギャフ!」
ディープゴブリンの背中は燃え上がり、飛び跳ねて近くの水たまりにダイブしていった。
数秒後、這い上がってきたゴブリンをアズライトが蹴り落とす。
更にもう一度這い上がってきたところをふらふぃーが撃ち抜く。
更にもう一回と這い上がってきたところをエタルナが火の攻撃。
怒涛の連続攻撃を受けてか、次は水から這い上がってもヨロヨロの状態で戦闘の構えをとっていた。
「こんなのがお尋ね者だったんだ...」
ふらふぃーは若干呆れたように言った。
「はっ!」
アズライトがディープゴブリンの持っていた両手剣を振り払うと、一回転してからの攻撃でディープゴブリンの横腹が僅かに開いた。
そこにふらふぃーが矢を撃ち込み、最後はエタルナの炎の剣がディープゴブリンの体を貫いた。
最後は全身が焼け焦げ、その場で倒れ込んだ。
「ふぅ...ちょっと生命力は並みのゴブリンより高かったが...それでも弱いことには変わりなかったな。さ、帰るぞ」
―王都ルノギスト 冒険者ギルド―
「はい、今回の報酬ね」
姉貴がアズライトに300Gを手渡した。
「最初の討伐にしてはよくやれていたよ、ってエタルナさんが言ってたよ。それほど、見込みがあるってことなのかもね!」
姉貴はそう言って二人の背中を軽く叩いた。
「王都に来てから驚かされることばかりだ」
「アズライトもそう?僕もだ。...本当に今日は疲れたぁ」
「ん~~!今日はちょっと早めに寝るかぁ...」
アズライトは冒険者ギルド横のベンチを立つと、兵舎の方へ向かっていった。それに続くようにふらふぃーも戻っていく。
その日の夜、エタルナは兵舎のベランダから意味ありげに平原を見つめ続けていた・・・。
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