Episode-5 災厄招来

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Episode-5 災厄招来

次の日、ふらふぃーとアズライトは王都を周った。 やはりこの日も活気に溢れており、話し声が絶えることがなかった。 「平和だな...やっぱ、襲撃とは無縁なんだろう...」 アズライトが不意に呟いた。 「うん。...まあ、これだけの防護壁を張っていれば...」 ふらふぃーが壁を見回した。 王都の街を大きく囲う城壁。 上には兵士が24時間監視を続けており、防護は万全だ。 その時、街の住処にどこかで見た姿を発見した。 「カガミン王?何故ここに...?」 「私もこの国の住民だ、どこに居たっておかしくはないだろう?」 カガミンは静かに笑った。 「はは...どこまでも民のことを考えているんですね...」 「民あってこその国だからね...私らも感謝しなければならないよ。この国を支えてくれている、この国の住民にさ」 ふらふぃーとアズライトは顔を見合わせた。 彼らの村の村長もお人好しだったが、この王ほど...と。 「さて、明日の朝には調査に向かった兵士たちが帰ってくるはずだ。それまでは君たちもゆっくりしていくといい」 「カガミン様ーーー!」 遠くから王を呼ぶ声が聞こえた。 「今行く!じゃあ、君たちにも神の御加護があらんことを」 カガミンは一礼すると、小走りで去っていった。 「あの王がいる限りは滅びなさそうだな...」 アズライトの顔が少し緩くなった。 やはりこの国は、民と政権が至近距離にある。 特に王だからと威張り散らすこともなく、逆に民の立場となって政治を行うカガミンは、反感も滅多に買うこと無く人望を積み上げてきたのだろう。そして彼の人望のもと集まった兵士たちは、その仕事に誇りを持っているだろう。 「僕らには、まだまだ知らないことばかりだ」 ふらふぃーも遠くを見つつ笑った。 その時、背後から二人の男女の声が聞こえた。 「ふらふぃー、アズライト。元気してたか?」 「期待の新人!よっ!」 エタルナと姉貴だった。 4人はギルドのテーブルに腰掛け、食事を嗜んでいた。 「そういえば、よもぎさんって普段何してるんですか?」 アズライトが姉貴に聞いた。 「ん~、よもぎさんは基本的に兵士の指導に当たってるね。まあ訓練とかの直接指導だよ」 「あの人は王都1の実力者だからな。団長を任されてるのにも頷ける」 「カガミン王を24時間ずーっと守ってるとかそういうわけじゃないんだ...」 ふらふぃーが不思議そうに言った。 「この国の治安は大陸1と呼び声高いからね~ちっぽけな犯罪者は居ても、王に不満を持つ人は少ないし、それにそのぐらいなら並の兵士でも抑えられる。だからよもぎさんは司令塔のような役割を全うしてるんだよ」 姉貴が答えた。 「なるほど...」 「っと...今日はこれを見せに来たんだ」 エタルナは鞄から紙を取り出した。 お尋ね者ポスターのものだ。 「カガミン王に頼まれてな、ここの討伐に行くことになったんだが...二人とも来れるか?」 アズライトは一呼吸置いた後 「いける」 とだけ返答した。 それに続くようにふらふぃーも首を縦に振る。 「エタルナさん、その魔物は...」 「少し面倒だな」 エタルナは微笑した。 ―雷鳴の山・麓― 「ここが今回の任務地点だ。最終目標は...このグロムウルフ。これの討伐だが...道中は様々な魔物が出ると思う。どんな状況でも柔軟に対応してくれ」 アズライトとふらふぃーはうなずいた。 雷鳴の山は長年掘り進められてきた洞窟を通って少しずつ上へと上がっていった。 「グルゥウウウッ!」 「っ!狼かっ!」 アズライトの右腕に狼が噛み付いてきた。 それを振り払い、片手剣で切り裂く。 「大丈夫か、アズライト...」 「ふらふぃーさん、大丈夫です」 「良かった。にしても...寒くないかい?」 ふらふぃーは若干身震いした。 エタルナは松明を灯すと、先を照らした。 「確かに...まだ正午頃なのに若干暗い気もする...」 「雷鳴の山はちょっと特殊でな、ここだけ年中雲が覆っているんだ。頂上に近付けば近づくほど強風になっていくし、雷が鳴っている。だがその反面鉱石類も豊富でな...村の発展には欠かせない山だったんだが」 「数ヶ月前からグロムウルフが支配しちまったことで安易に近付けなくなった。しかも雷を扱うんだとよ。王都の兵士でも奪還がままならなかったわけだ...」 エタルナは再び洞窟内に入っていく。 アズライトとふらふぃーもそれを追うようにしていった。 「痛...なんだ...」 ふらふぃーの足に痛みが走った。 「どこからだ?」 アズライトが周囲を見渡す。 「これも魔法っていうんだろう。あいつだ」 エタルナが指す方向を見ると、おかしな仮面をつけ棒を振るい笑っている人形の魔物が踊りながら棒を振り回していた。 「魔導師ってやつだろう」 「あそこから電流を流しているのか...はっ!」 ふらふぃーの狙撃術が光る。 魔導師の腹部を貫通し、その場に倒れ込んだ。 ふらふぃーが弓を背中に戻すと、背後から騒がしい音が聞こえた。 「はっ!」 アズライトと交戦しているのは木製の盾と斧を構えたトカゲ型のモンスター、そしてビリビリと静電気を発しているスライム。 更にエタルナを取り囲むのは無数のコウモリだった。 ふらふぃーが弓を構えると、背後から攻撃を受けた。 すぐさま振り返ると、巨大な芋蟲(ワーム)が口を大きく広げていた。 「ヴァンパイアバットか、こいつぁ厄介な罠を踏んだな...」 エタルナは若干の歯ぎしりの後、火を抑制した攻撃で一体ずつ焼き払っていく。しかしこのコウモリに噛まれると、生命力が吸われていく。 アズライトはコボルト(盾持ちトカゲ)の盾に苦戦しつつも、連続して攻撃を仕掛けることにより、若干欠損させることに成功。 「っぁ!」 アズライトのスライディングすることで、コボルトの背後に回る。 そして背後から剣を突き刺そうとした瞬間、全身が痺れた。 「うぉっ...」 アズライトは倒れ込むと、コボルトが斧を振りかざした。 それをなんとか剣で受け止める。 ふらふぃーは、ワームの口に矢を撃ち放つ。 よろけたところを更に連射で打ち崩し、倒す。 「はぁっ!」 アズライトは剣を受け流し、体制が崩れたところでコボルトの喉元に剣を突き刺し、更に腹部を蹴ることで大出血を起こし消滅した。 エタルナは8体居たヴァンパイアバットを全員焼き尽くし、既に先へと進んでいたようだ。 その後も度重なる戦闘を越え、遂に頂上付近まで辿り着く。 頂上付近まで来ると、雷の音も強く響き渡り、雨風も強くなっていった。 そして頂上の崖に一匹、灰色の体をした狼が黄昏れていた。 シャープに光る、紫の瞳を持つ狼。その目は何よりも気高かった。 刹那、超高速で走り出したかと思うと、エタルナが倒れ込んだ。 「!?」 「エタルナ!」 ふらふぃーがエタルナに近寄ると、全身に電流が走った。 「厄介にも程があるな...」 「グルルルル...」 雷が一閃、木に墜ちた。 アズライトは静かに片手剣を抜くと、防御の構えを取る。 相手の出方を疑う隙もなく、グロムウルフは襲いかかってきた。 電気を宿した爪が、剣に突き刺さる。 アズライトはグロムウルフの下になる形になるやいなや、腹部を蹴り上げる。グロムウルフは2mほど後ずさりした。 グロムウルフの後ろ右足に矢がかする。 それに反応し、ふらふぃーに攻撃目標を転換した。 「!ふらふぃーさん!!危ない!」 グロムウルフの電撃の爪がふらふぃーの左肩に鈍く突き刺さった。 「ぐぁっ!」 ふらふぃーは左肩を抑える、が数秒もしないうちに血が溢れてきた。 エタルナが炎の剣で交戦するも、グロムウルフの予想以上に強固な爪に全て防がれてしまう。 エタルナは一度後ろへ引く。 「狙うなら防御の薄い喉元、腹部...あとは足だ」 アズライトに囁いた。 グロムウルフの右足からは血が流れていた。 (ふらふぃーさんが撃ち抜いた箇所だ...) 確かに数分前とは明らかに機動力が落ちていた。 しかし... (それでも速い・・・!) 間一髪攻撃を避けると、剣を振りかざした。 エタルナも炎を放とうとする。 刹那、グロムウルフの瞳が金色に輝き、毛が逆立つ。 そして、これまでの攻撃とは一段違う、強力な電撃が飛ばされた。 至近距離にいたエタルナとアズライトは10mほど吹き飛ばされ、遠くにいたふらふぃーにも影響が及んだ。 ふらふぃーは先程負った怪我が深く、矢も引き絞れない状態だ。 エタルナも最初に受けた傷から先程の放電など怪我が積み重なり、到底グロムウルフの相手になれる状態ではなかった。 事実上、まともに交戦できるのはアズライトのみとなった。 グロムウルフの俊足、そして電撃とアズライトは徐々に防戦一方となり、遂には崖の端まで追い込まれてしまう。 その時、グロムウルフの体制が崩れた。 見ると、左足を一筋の矢が貫いていた。 (ふらふぃーさん...!) ふらふぃーが最後の力を振り絞って放ったものだとすぐ分かった。 これは最大の好機だと、アズライトは剣を天に突き上げた。 刹那、一筋の雷がアズライトを貫いた。 その時、世界の時が止まったようだった。 「アズラ...」 エタルナの声が少しだけ聞こえた。 何かを喋っているようだったが、何もかもが遠のいて聞こえた。 「ぁぁぁぁ!」 アズライトは叫び声を上げると、雷の力を纏った剣を一閃した。 グロムウルフの体が上下に別れ、その場に倒れ込んだ。 ―冒険者ギルド・医務室― 「ふらふぃーさんは...」 「大丈夫です。数日も安静にしていれば治りますよ」 医者の言葉に少し安堵した。 エタルナは既に完治しており、アズライトと姉貴と共に冒険者ギルドの別室にいた。 「確かに雷は直撃しました...。ただ...驚くほどに何ともなかったんです」 「そりゃあそうだろう。医者だって"異常なし"って言ったんだから」 姉貴は二人の会話を聞き、少し考えた後 「それってもしかして...エタルナさんと同じなんじゃ...?」 「...ああ、ありえるな」 「え? アズライトが困ったように聞き返す。 「エタルナさんは"火属性"の持ち主なの。だから炎の影響はあまり効かないし、炎を自由自在に操れる。あなたの場合は...そう。背水の陣って状況になって、あなたの叫びと雷が共鳴して、"雷属性"の力に目覚めたのかもしれない」 「だとしたら...これは凄いな。雷を自在に操れるってことか?」 「...どうなんでしょう...」 その日の夜、アズライトは一睡もできなかった。 そして、次の日... 「おぉい!アフター隊が帰ってきたぞ!」 調査へ向かったアフター兵士長の部隊が戻ってきた。 調査の結果は普通の襲撃として処理されたらしい。 ただ、一度に二つの集落が襲撃されるとは...たまたまで処理されるものだろうか。 多くの念を抱えたまま、時間が過ぎていった。 アフター兵士長が帰ってきたその日のうちに、よもぎ団長率いる大部隊がルノギスト~メルドを結ぶ平地の魔物の掃討に向かった。 「...というわけだ。あまり有意義な情報は得られていない」 カガミン王は医務室の椅子に腰掛けて、ふらふぃーと話していた。 「ありがとうございます。...ですが、こんな大部隊を一度に放ってしまって大丈夫でしょうか?万が一襲撃などが起きたら...」 「いざとなればエタルナやアフターがいる。それに...アズライト。彼、雷属性を使えるようになったとか。...これだけでも十分心強いよ」 ふらふぃーとカガミンは互いに微笑した。 ただ、不思議とその日はふらふぃーの胸に妙な不安感があった。 やけに騒がしい鳥たちと、不穏な風の音色。 (何かが、起こるのではないか) そう思わせるような状況だった。 その時、冒険者ギルドの扉が力強く開いた。 大きな声はギルド内全域に響き渡る。 そして、伝えられた情報は・・・ 「魔物の軍勢がルノギスト城内を包囲!!!既に東門と正門は破られています!!今すぐに撤退を!!!」
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