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Episode-6 新たな旅路
王都ルノギストは襲撃された。
それも突如として・・・。
大部隊が出払っていた直後であったため、残された兵士は僅か。
それでも滅ぼさせまいと必死に戦う兵士たち。
その中にはアズライトとエタルナもいた。
「次から次へと来る...!これじゃ止めようがない!」
アズライトが苦し紛れにそう言った。
「喰え」
ふと背後からどこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
すると、目の前に大きな闇のホールが出来上がる。
そのホールから無数の手が飛び出し、魔物をホール内へと連れ去った。
「!アフター兵士長...」
「ここらの敵は任せろ。君たちはまだ避難の完了していない住民を避難させるんだ、さあ、はやく!」
アズライトとエタルナは避難経路の確保にあたった。
王都は既に魔物の巣窟となっており、歩けば歩くほど魔物と遭遇した。
「城の中に外へと繋がる井戸があります。それを使って逃げて下さい!」
城内に残っていた兵士が二人を誘導した。
住民は全員避難しており、後はルノギスト兵士に任せろと。
―ルノギスト地下道―
地下道に入っても、上から戦闘の声が聴こえた。
地下道にはふらふぃーとカガミン王がいた。
「!ふらふぃーさん、それに王も・・・」
「王都はもう無理だろう...。今は一刻も早く、これを他の国へ伝えなければならない。それに...君たちの村が襲撃されたように、明らかに世界中に異常が起きているのは間違いない」
カガミンが地下道を歩く中で言った。
確かにここ数十年も起こらなかった襲撃が、僅か数週間足らずで少なくとも3件...いや、もっと起こっているのかもしれない。
ふらふぃーが不意に口を開いた。
「...そういえば、襲撃の時は...なんというか、作戦行動でも取っているかのようなタイミングだった。僕らの村が襲撃された時は、夕食の準備で誰も村の警備には当たっていなかったし、メルドの街の時はパレードがあったんだろう?その時は明らかに守備が手薄になるはずだ。それに今回は...よもぎ団長という王都の主戦力、そして兵士の大半を出払っていた直後だ」
そう言われてみればそうだった。
これまでの襲撃は、明らかに守備が手薄なタイミング。
魔物が「作戦行動」を取るなんて聞いたことがない。
「もしかして...裏で指揮を取っている輩がいる...?」
アズライトが感づいた。
それに続くようにカガミンが話す。
「それが本当だとしたら、世界は...いや、もっと最悪な事態になるかもしれない。」
エタルナ、ふらふぃー、アズライト、カガミンは地下道を進んでいった。いつしか分かるかもしれない、この世界の「悪の根源」が。
あくまで仮説でしかないが、疑うには十分な判断材料だった。
そして、地下道の出口に差し掛かった時...
「ん...?」
水に浮かぶ物体が見えた。
エタルナが凝視すると、それは...
「人だ・・・!」
その一言に他の3人が凍りつく。
「人・・・!?」
アズライトが確認しに行く。
その姿はうつ伏せで、よく見えなかったが確かに人だった。
「...一人じゃない...」
ふらふぃーの言葉に気づき、あたりを見渡すとどこもかしこも人で埋め尽くされていた。まるで地獄絵図だ。
「これ...全部ルノギストの住民じゃないか...!?」
街を統治してきたカガミンなら分かった。
50mほど進むと、巨大なスライムとゴーレムがいた。
―エンペラースライム(水)
「スライムの皇帝様が王都の地下道で自国を広げてやがったか...」
エタルナは剣を構える。
「私も戦おう」
カガミンはゴーレムの前に立ち塞がった。
アズライトもカガミンの元につく。
「戦えるんですか?武器もないのに...」
「私もこう見えて風属性の使い手だ。甘く見ないでくれよ」
カガミンは軽く笑うと、右腕を突き出して風を呼び出した。
ゴーレムは3mほど後退りする。
ゴーレムは石レンガのようなもので全身が作られおり、ところどころが苔むしていた。
ふらふぃーは混戦中の場所から一旦離れる。
生存者を見つけるためだ。
しかし、どれも既に息をしていなかった。
(あんな短時間でこれだけの人数を...ん...?あれは...)
ふらふぃーは端で僅かに息をしている住民を見つけた。
「...!姉貴!?」
冒険者ギルドのオーナー、姉貴だった。
水をかき分け、姉貴の元へ近づく。
(まだ息がある...ここじゃ危険だ...どこか安全な...)
ふらふぃーは周囲を見渡す。
しかしどこもかしこも混戦状態で、安全とは言えなかった。
「...」
ゴーレムが巨大な腕を振りかざす。
振りかざした腕が天井に直撃し、瓦礫が降り注ぐ。
「あれじゃ近付けないな...」
アズライトは雷を放つ。
直線を描きゴーレムに命中する。
しかしそれといったダメージは入っていないようだった。
(ダメだ...王の風攻撃も効かなかった...刃も通らない...一体何をすれば破壊できるんだ・・・!?)
アズライトはふとエタルナの使っていた技を思い出した。
(剣に...雷属性を!)
アズライトは剣を構えると、その剣に雷を宿した。
「唸れ!雷鳴!」
アズライトが飛び跳ねる。
一回転し、勢いをつけてゴーレムの胴体を斬りつけた。
しかしそれでも、少し削れたというだけでダメージは少量だった。
「っ!」
ゴーレムが両腕を構えた。
「アズライト!ウインドクロスッ!」
強烈な風が交差する。
ゴーレムの足が若干もつれた。
エタルナはエンペラースライムに苦戦していた。
「くそ...炎が効きやしないな...相性が悪すぎる...」
エンペラースライムは飛び跳ねてエタルナの頭上から襲いかかる。
それを間一髪避けるも、風圧で吹き飛ばされる。
更に口から放射した激流が、エタルナを追い詰めていく。
(攻撃の隙がない...!)
「はあっ!」
剣で斬りかかるも、全身の90%以上が水で構成されているため、なかなかダメージが通らない。
(内部から燃やしてやる!)
剣を伝って炎を生み出すが、それも水で打ち消されてしまった。
至近距離での激流が命中し、壁まで吹き飛ばされた。
「ぅく...」
頭を強く打ったため、段々と視界がぼやけてくる。
「エタルナ!!!」
地下道内に響き渡るアズライトの声。
「アズライト!避けろ!」
カガミンの声に気づいたときには遅かった。
ゴーレムの巨大な腕に捕まり、動けなくなる。
「うぐ...っ...」
カガミンもアズライトがいる中で、下手に攻撃ができない。
ゴーレムの強靭な防御力と違い、アズライトはゴーレムほどの防御力を兼ね備えているわけではない。
もしかすると、風攻撃でアズライトが巻き込まれる可能性がある。
「ッ...」
エタルナもエンペラースライムの攻撃にダウンしたままだ。
刹那、ゴーレムの全身が光り輝いた。
アズライトを手放したかと思うと、今度は煙を上げた。
「!アズライト...君、何を...!?」
「エタルナさんは"火属性"だから"火の影響"を受けなかった...。だから"雷属性"は"雷の影響"を受けないはず...それに賭けたんですよ」
(この状況で...咄嗟の判断か...よくやるよ、全く...)
カガミンは大きな風の球体を呼び出した。
アズライトも腕を天高く上げ、雷を呼び出す。
「トライスパーク!!」
アズライトの咆哮とともに無数の雷が降り注いだ。
ゴーレムに3発、エンペラースライムに2発命中する。
特に雷を苦手とするエンペラースライムには効果抜群だった。
「ウインドクロス!」
カガミンの風攻撃がゴーレムに命中し、度重なる攻撃によって壊れかけていた胴体が完全に崩壊した。
「ふう...」
しかしエンペラースライムは痺れから治ると、再びエタルナのほうに向かって進みだしていった。
それに気付いたアズライト、カガミンはすぐさま止めに向かう。
「共鳴しろ、雷よ...」
剣から大きな雷が放たれる。
雷の剣がエンペラースライムを切り裂いた。
エンペラースライムは電撃が全身に周り、破裂した。
それから数秒間は、エンペラースライムの破裂した箇所に水が降り続けていた。
そして、ふらふぃーが姉貴を抱えてやってきた。
更に一時は戦闘不能に陥っていたエタルナも立ち上がる。
「...まさか生存者がいるとは...良かった。」
カガミンはほっと胸を撫で下ろした。
「ただ、非常に危険な状態です...。辛うじて生きてる...」
ふらふぃーが険悪な顔をして言った。
「この地下道を抜けたらバドラハ新市街がある。そこで治療を受けてもらおう...それと」
「私はたった今から、王の名を捨てる」
「え?」
3人が顔を見合わせた。
「...ルノギストが滅ぶなら、王カガミンも滅ぶ。...これからはご一緒させてもらうとするよ。さすらいの冒険者にね」
カガミンは笑うと、荷物を持って地下道の出口へと向かった。
「王、待ってくださいよ!」
ふらふぃーがその後を追う。
「おーっと、私はもう王じゃないんだ。ただの"カガミン"だ」
ふらふぃーの頭を鷲掴みにすると、ぐるんと一回転させた。
そして、姉貴を抱え、エタルナ、アズライト、ふらふぃー、カガミンらはバドラハ新市街へと向かった。
北に約1kmほど歩いていくと、すぐにその街は見えた。
道中では驚くほど魔物に遭遇したが、アズライト、カガミンの奮闘もあってか難なく進むことが出来た。
―バドラハ新市街―
「頭を強打したかな、いずれ起きるでしょう...。ただ、発見がもう少し遅れていれば...」
神父がそう言った。
「良かった...」
ふらふぃーは宿屋の一室で安堵の息をついた。
「エタルナの傷は大丈夫なのか?」
「ん...大したこと無い。ちょいと強めの攻撃は食らったけど...」
アズライトの問いにエタルナが答えた。
「でも、やっぱ強い魔物は強いんだね...グロムウルフの時もそうだった。ゴーレムにエンペラースライム。今のままじゃ全く歯が立たないや」
ふらふぃーが自身の肩を抑えて呟いた。
「...確かにな、それこそ、世界に異常が発生してるっていう事なのかも」
エタルナが天井を見上げて受け答えた。
―夜―
「イ...」
アズライトは初めて自身の夢に自分の肉体が出た。
「君は誰なんだ...?」
何度も夢で見た少女に問いかける。
「ヘチ...ー」
「...何を言ってる...?」
アズライトが少女に手をのばす。
しかし、不思議と少女は遠ざかっていった。
「ひ...い..ぶにう...」
「...!?」
「イ...チ...レ!」
意味不明な発言を続ける少女に、アズライトは混乱していった。
「イ...ズ...!」
「なんだ...君は...何を伝えたい?」
急に視界が澄み切った。
朝だ、あぁ。またしても少女が消えていく。
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