Episode-1 襲撃

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Episode-1 襲撃

「それはね、天藍石(ラズライト)っていうの」 少女と少年は顔を見合わせた。 薄暗い洞窟の中、静かに青色の光を放つ宝石。 それにひどく見惚れていたようだ。 「君の名前と似てるね!」 少女は無邪気な笑顔で笑った。 そしてその素っ気ない会話は、ここでいつも終わる。 気がつくと、少女の姿は遠ざかっていく。 手を伸ばしても届かない。待ってくれやしない。 ―――――――――――――――――――――――― 「待って―――」 ...あぁ、またこの夢だ。 もう何週間も見続けている。 自室のベッドの上、アズライトは朝方の空を見上げて黄昏れていた。 15世紀末、世界は魔物の驚異と隣合わせで生きている。 しかしそれでも近年は魔物を退ける技術が発達していった為か、人々は暫しの安息を手に入れることが実現した。 今日も今日とて、平凡な毎日を過ごす。そんな日々が続いている。 「おはよう、アズライト。」 「おはようございます、ふらふぃーさん。」 山奥の辺鄙な村だが、地形の関係からか昔から魔物に攻め入られることは少なかった。それだけに住民たちは魔物の驚異を一切知らない。 それは自分にも言えることだが...。 「あぁ、そうか。明日は街に出かけるだったな」 月に何度か、街へ買い物に出かける時がある。 それが数少ない村から出る日であり、街を見て回れる時間だ。 村人からすれば街に住むことが夢そのものである。 「ま...でも夢は夢止まりだよな...」 ―翌朝― アズライトは早朝から身支度を済ませ、街へと足を運ぶ。 距離は約8km。山を下り、平地を歩くこと約3時間。 目的地である"メルドの街"へと到達した。 「前に来たときより賑やかになってないか...?」 今日の街は朝っぱらから妙に騒がしいようだった。 見ればそこらじゅうに暖簾(のれん)が上がっている。 「今日は祭りっぽいなあ...ということは珍しいものも売っているかも...」 アズライトは日が真上に登ってくる時間帯まで屋台を周り続けた。 「すっげぇ...俺の村じゃないものばかりだ...」 「あぁ、でも買うものは別にあるんだった。まず先にそれだ」 アズライトは一通り買い物を済ませたあと、パレードを見るために街に数時間ほど滞在した。 日が沈み始めた頃、陽気な音楽とともにパレードが始まった。 住民たちはパレードとともに徐々に気が高まっていく。 踊りだす者、静かにその様子を見守る者、酒に浸る者。 パレード終了間際、突如として街の門が破壊された。 パレードは一瞬で静まり返り、門に視線が集まる。 刹那、魔物の集団が街に入り込んできた。 陽気な雰囲気は一変、殺戮ショーへと変わる。 「なんだってんだ!?なんで急に魔物が!?」 「門は当分破壊されることはないって言ったじゃないかよ!」 「門兵はなにやってんだ!!!」 混乱する住民たち。到底避難もできるような状況ではない。 アズライトもこの状況に頭の整理が追いついていなかった。 そして・・・ ゴブリン「グァ!」 アズライト「っ!!!」 ゴブリンのナタの攻撃を間一髪かわす。 街には火が散乱しており、とてもではないが逃げれる状況ではなかった。 「最悪だ...よりによってなんでこの街に...」 刹那、ゴブリンの頭から血が吹き出た。 見ると石が突き刺さっている。投石か...? そして上からの大声がアズライトの耳元に響いた。 「上だ!早く来い!!」 教会の頂上。それは街の壁を越えるほどの高さはあった。 「あんた...この街の人じゃないな...。不運だったな、こんなときに...」 「いえ...ですが、これは...」 教会の頂上から見る景色は絶望的だった。 炎が街に蔓延し、魔物が住民を切り刻んでいく。 ゴブリン、スライム、そしてゴーレム。 「なぜだ...ここ数十年は魔物の被害など一切なかったはずだ...」 「昨日安全だったからと言って、今日安全な保証はない」 教会に避難している誰かがそう呟いた。 ここに一時避難しているのは20人足らずといったところか。 「ここが陥落するのも時間の問題だ...どうする?」 「どうするもこうするもねえよ...もう...無理なんだよ...」 「弱いとこがでたな...昔は"魔物と真っ向から戦う"ことで退けていた...ただ近年は"守り"に徹していた...その守りが破られた今、戦う術は僅かだ」 「私はまだ...やり残したことばっかなのに...」 絶望の声が飛び交う。それも数分後には止んだ。 この情報が王都に伝達されるのには最低でも1日はかかる。 そこから十分な軍隊を派遣するには3日はかかる。 到底生き残るのに現実的ではない数値だ。 (まさか...街に出てきただけでこんなことになるなんてな...) アズライト自身も、十分に死を覚悟していた。 「助かりたいか?」 「...何言ってるのよ...助かりたいに決まってるじゃない!」 「もし、仮に俺達が助かる術があるとしたら...それは何だ?」 燃える市街地を見つめ続ける青年はそう問いかけた。 「...知らねえよ...もう無理なんだよ...」 「大切なのは、絶望のみを抱えないことだ」 「もし、この窮地を脱する術があるとすれば...それは...」 青年が燃え盛る火炎の中、何かを発した。 アズライトには聞き取れなかった。しかし... 「お前...正気か?」 「何もしなければ死ぬだけだ」 青年は教会から飛び降りた。 いつの間にか手に取っていた銀の剣。 「あ...助けないと!」 アズライトは教会を出ると、近場にあった鍛冶場から斧を取り出し、青年の加勢へ向かった。 青年は炎を全く苦とせず、それどころか炎の影響を受けないかのように縦横無尽に街を駆け巡っていた。 剣の扱いには慣れているのか、軽々と剣を振り回し、魔物を掃討する。 アズライトも重量装備である斧を武器に、魔物を倒していく。 しかし... ゴーレム「ヴンッ!」 ゴーレムの接近に気付かず、背後を取られてしまった。 ゴーレムの拳がアズライト目掛けて振り下ろされていく。 刹那、ゴーレムの片腕が吹き飛んだ。 あの青年だ、すぐに分かった。 更に青年は建物の壁から作り出される反動を利用して残る腕も破壊。 たかだか剣一つで、硬いゴーレムの腕を砕くとは... 「...街の魔物はあらかた片付けた」 「あなたは...一体誰なんです...?」 「名乗るのは後だ、お前はどこから来た?」 「あそこの...村で」 アズライトは指差した先に煙が上がっているのを見た。 「あそこも襲撃されているのか...!?」 さすがの青年も、これには動揺しているようだった。 一度に二つの街・村が襲撃されるなど聞いたことがない。 そもそも、襲撃すら数十年なかったことだったのに... 「お、俺の村...が...」 アズライトは村へ駆け出していった。 荷物も、何もかも、全て置いて。 あの村が消えれば、これまでの生活がすべて消える。 嫌だ、嫌だ、頼む、何かの夢であってくれ―――。 「君なら、私を見つけてくれる?」
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