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2.隠しごと
「楽しそうにでかけたわ。」
華が窓から様子を見ていた僕に声をかけた。
「いつも悪いな。本当に助かっているよ、華。
自分の家の方は大丈夫なのかい?」
華は肩をすくめた。
「大丈夫大丈夫。息子はもう大学生だし、ダンナは夜遅いしね。
家も近いのだから、遠慮しないでとうさん。」
胸の奥から大きなため息がでた。
「あんなにしっかり者の母さんが、認知症になんてなぁ。
華の事、自分の母親だと思っているんだね」
「そうね・・。似ていたのかしら」
「いやいや。キツイ母親だったと聞いているよ。
優しい華に理想の母親を重ねているのかもしれないね」
華はくすくすと鼻にしわを寄せて笑った。
「随分低い理想だね。
私は全然かまわないけれど、とうさんが辛いのじゃない?」
つい目が居間にある家族の記念写真にゆく。
妻は鍔の広い帽子を風に飛ばされないように片手でおさえて、
僕の横ではれやかに笑っている。
ほんの数年前のような気がする。
僕の何がいけなかったのだろう、といつも思う。
僕の何が妻をこんなに怯えさせてしまうのだろう・・。
華が俯いた僕の顔を覗き込んだ。
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