2.隠しごと

1/2
前へ
/7ページ
次へ

2.隠しごと

「楽しそうにでかけたわ。」 (はな)が窓から様子を見ていた僕に声をかけた。 「いつも悪いな。本当に助かっているよ、華。 自分の家の方は大丈夫なのかい?」 華は肩をすくめた。 「大丈夫大丈夫。息子はもう大学生だし、ダンナは夜遅いしね。 家も近いのだから、遠慮しないでとうさん。」 胸の奥から大きなため息がでた。 「あんなにしっかり者の母さんが、認知症になんてなぁ。 華の事、自分の母親だと思っているんだね」 「そうね・・。似ていたのかしら」 「いやいや。キツイ母親だったと聞いているよ。 優しい華に理想の母親を重ねているのかもしれないね」 華はくすくすと鼻にしわを寄せて笑った。 「随分低い理想だね。 私は全然かまわないけれど、とうさんが辛いのじゃない?」 つい目が居間にある家族の記念写真にゆく。 妻は(つば)の広い帽子を風に飛ばされないように片手でおさえて、 僕の横ではれやかに笑っている。 ほんの数年前のような気がする。 僕の何がいけなかったのだろう、といつも思う。 僕の何が妻をこんなに怯えさせてしまうのだろう・・。 華が俯いた僕の顔を覗き込んだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加