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3.記憶の欠片
「ただいまぁ!」
妻が夕方ご機嫌で帰ってきた。
今日は楽しかったのかな?
介護士さんたちを困らせたりしないのかな?
喧嘩なんてしないのかな?
聞きたいこと、話したいことは沢山ある。
聞いてもらいたいこともまだまだあるんだ。
「おかえり」
僕が返事をすると、妻の顔がこわばる。
僕はそっと妻に近づいて、妻と目の高さを同じにしてひざまずいた。
「僕は聡。君の夫だよ」
「さとしさん・・?夫?」
妻の目が、何かを思い出すかのように細められる。
失ってしまった記憶はもう蘇られないのかもしれない。
僕はできるだけ優しく妻の手を握った。
びっくりするように、妻は手をひこうとしたが
「あら・・?」と言ってまた握り返してきた。
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