狭間に引き落とされて

　「すったらこと言ってっと、狭間に引っぱられっぞ。」
　おじいちゃんが私を𠮟るときによく言った。いや、おじいちゃんだけじゃない。

　「そんなこと言っちゃダメよ。狭間に引き落とされる。」

　お父さんも、お母さんも、学校の先生も、近所のおじさんも、この町の人はみんな言う。誰でも知っている当たり前のこと。

　小学６年生の夏、おばあちゃんに一度、聞いてみたことがある。 "狭間に引っ張られる・隙間に落ちる" とは、どういうことなのか。

　おばあちゃんは、優しく教えてくれた。
　「昼と夜の間、町と町の間、晴と雨の間、いろんな間には、狭間がある。大人の言うことをちゃんと聞かない子供は、この"狭間"から出てくる手に掴まれて、狭間の底に引き落とされる。だから、美子(よしこ)はちゃんと、大人の言うこと聞くんだよ。」

　私が、当たり前のことに疑問を持ち、おばあちゃんに聞いたのは、隣に住む４年生の恵太君がきっかけだった。