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まるで、昼と夜の間。その狭間から出てきた手が、私の足を掴んでいるかのようだ。
猪の生態なんて知らないけど、今、目の前にいる猪が怒っていることは分かる。そして、私を睨みつけ、今まさに突進を始めようとしている。恐怖でパニックを起こしている心を、必死に冷静であれと抑えようとする。冷静であろうとする思考は、無駄な分析だけを進めるが足を動かしてくれない。
猪の向こうから、カシャンカシャンと鈴の音がする。一瞬、鈴に目を向けたが、風が吹いていないので鈴は揺れていない。恐怖で幻聴が聴こえてきたのかと、無駄な分析が進む。
カシャン カシャン
「よしこー。」
カシャン カシャン
「よしねー」
おじいちゃんと恵太君の幻聴まで聞こえてきた。もう、本当に終わりだと覚悟を決める。いや、本当は、『覚悟』なんて感覚を知らない。ただ、もう駄目だと思っただけなのかもしれない。
フガ フガ
幾分、猪のうなり声が小さくなった気がしたと思ったら、猪は踵を返して茂みの中へ帰っていった。猪が見えなくなると、私はその場に崩れ落ちた。
カシャン カシャン
「美子、大丈夫か。」
「よしねー。」
振り返ると、そこに恵太君をおんぶしたおじいちゃんがのいる。帰りの遅い私たちを心配して、探しに来てくれたのだった。
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