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夏休み、毎日うだるような暑さが続く。既に休みは半分を過ぎ、そろそろ宿題に手を付けないとまずい。毎日強制的に畑仕事を手伝わされていると、勉強している方がましだと思えていたはずなのに、いざ宿題を目の前にすれば話は別だ。
机代わりの段ボール箱に教科書を並べた途端に、後回しにする理由を探す。その結果、鉛筆削りをすることにした。
居間の小物入れから小刀を持ち出すと、まだ先の尖っている鉛筆の先に切っ先を当て、慣れた手つきで削る。
左手の親指で小刀の背を優しく押すようにして削るのが安全なのは分かっている。しかしついつい不精したくなる。
時代劇の侍が悪代官を成敗するような気持ちで、シャッシャッと 小刀を小気味良く振りぬく。
「いたっ。」
痛みを感じるより先に声が出た。続いて、左手の人差し指から真っ赤な血がたらりと落ちる。
『小刀は、道具と武器の間。雑にしてっと狭間に引っ張られっぞ』
鉛筆の削り方を教えてくれたおじいちゃんの言葉が頭をよぎる。しばらく傷口をなめた後、赤チンを塗った。真っ赤に染まった指先を眺めていたら、今日はもう十分勉強をした気分になり、教科書を閉じた。
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