狭間に引き落とされて

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 夏休みも残りわずか、宿題の進捗はまったくとういある日、この夏休み唯一のお出かけをした。向かった先は、毎年夏休みに泊まりがけで遊びに行くおばあちゃんの家。  一緒に住んでいる父方の祖父母と違って、年に数回しか会わない母方の祖父母はとても優しいので、会うのをとても楽しみにしていた。  母方の祖父母も県内に住んでいるが、バスと徒歩で半日以上かかる。県北部の山の梺。人工的な畑に囲まれた私の町と違って、自然の中に住んでいると感じられる美しい村。  自然との境界線が曖昧な畑で育てた野菜、取れたてのキノコや山菜、その日に川で釣った魚、そんな自然な材料を使ったおばあちゃんの手料理はとても美味しい。他にも虫捕りをしたり、川遊びをしたり。私は楽しみでしょうがない。ただ、今年は1つ嫌なことがある。  それは、恵太君がついてくること。両親が忙しいということで、どこにも出かけていない恵太君がかわいそうということで、お母さんの提案で一緒に来ることになってしまった。  「東京の違ってバスの待ち時間が長い」とか、「東京のバスと違って揺れが激しい」とか、おばあちゃんの家につくまで恵太君はずっと不満を言っていた。  「じゃぁ、来なきゃよかったのに」そんな言葉を何度も言いそうになったが飲み込んだ。別に、恵太君への優しさではない。そんなことを言ったことをお母さんに告げ口されたら怒られるから。  散々、田舎に文句を言っていた恵太君だったが、おばあちゃん家の周辺の自然は、気に入ったようだ。昼過ぎに到着して、祖父と一緒に3人で魚釣りをした。  恵太君は、魚が釣れたことも、自分の釣った魚を夕飯に食べることも、とても嬉しかったようで食後もずっとはしゃいでいた。
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