プロット分解をする

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プロット分解をする

プロット分解とは……。 小説、脚本、漫画などシナリオを作成する時、まずはプロットを作成します。あらすじですね。 その後に「箱書き」を作ります。 シナリオの構成をまずは考え、その後に肉付けしていきます。 これとは、逆のことをします。 完成作品からその肉を削ぎ落し、構成のみを抽出し、箱書き状態まで戻す作業を「プロット分解」と呼んでいます。(私の造語です) 人によって言い方は色々ありますが、「逆ハコ」「逆プロット」と呼んでいる人も多いですね。 この完成作品からプロットに戻す作業はシナリオライターの訓練によく使われますので、プロになりたい方はやってみてください。 また、箱書きの書き方はこんな感じです。 本来は脚本で使う訓練方法ですが、小説でも使えます。 例に映画の不朽の名作「チャイナタウン」を箱まで戻してみます。 【チャイナタウン 脚本:ロバート・タウン】 1  〇主人公ジェイクの探偵事務所で、浮気調査の結果を依頼人の男Aに報告している。(伏線) 男Aの職業が「漁師」であり「カジキ」が儲かるらしい。(伏線) 〇次の依頼人、モーレイ夫人がやってくる。夫の浮気調査をジェイクへ依頼。旦那のモーレイは水道局のトップ。 2 〇調査開始。議会で水道、ダムの必要性を説く演説をモーレイがしている。市民から反発がある。 〇枯れた河を調査しているモーレイを遠くから観察するジェイク。 少年とモーレイが何かを話している。(伏線) 〇モーレイは海へやってきて眺めている。(伏線) 〇夜になり、貯水池から海に放水がある。(伏線) 結局、モーレイは朝になるまで海にいたらしい。 〇老人のノアとモーレイが何かを話している場面を盗撮する。 「カジキ」とキーワードがある。(伏線) (0:20)プロット1 〇モーレイが若い女といる場面を盗撮する。依頼を達成する(プロット1) 〇直後にモーレイ夫人が事務所に現れる。以前きたモーレイ夫人と違う人。以前の依頼主は偽のモーレイ夫人だと分かる。本物のモーレイ夫人に訴えられる(プロット1) 3 〇モーレイを訊ねて事務所へ行くが不在。本物のモーレイ事務所で「貯水池からの放水のメモ書き」を見つける 〇モーレイの代りに水道局の部長と会う。部長の部屋にカジキの剥製が飾ってある。(伏線) 〇モーレイの家を訊ねる。モーレイは不在。 庭の池に眼鏡が落ちている(伏線) 庭師が「この池の水は芝によくない」と言っている(伏線) →モーレイ夫人はなぜか「起訴」を取り下げる。 〇貯水池へいく。警察が大勢いる。 モーレイの水死体があがる。 4 〇モーレイ夫人と共に、警察に事情聴取される。 〇遺体安置所を調査していると、ここ最近「枯れた河で溺死した死体」があったと分かる。 〇枯れた河へ行ってみると、モーレイと話していた少年を発見する(回収) 放水についてモーレイから聞かれたらしい → 放水についてを、モーレイも探っていたと分かる 〇貯水池を調べていると、放水がある。その見張りにナイフを持ったガードマンがうろついている。 〇偽モーレイ夫人から電話が入る。偽モーレイ夫人に行動を指示している人間を聞くと、「新聞の死亡欄にある名前」と言われる。(伏線) 〇本物のモーレイ夫人と会う。モーレイ夫人の主人と主人の愛人への態度がおかしいと指摘する。 モーレイ夫人の結婚前の苗字が「クロス」だと分かる。 ミッドポイント (0:50~1:00) 〇ジェイクは、事件に黒幕がいるとモーレイ夫人へ話す。 同時に、モーレイ夫人が何か隠しているとも指摘する。 〇モーレイの事務所へ行く。その壁に「ノア・クロス」という男の写真があると分かる。事務所の秘書から水の権利関係者の話を聞く。モーレイとノアという男が水道の権利を持っている。 〇モーレイ事務所で部長と会い、この部長が偽モーレイ夫人を雇って指示をしたと判明。 → オレンジ畑へ水を送っているという話を部長から聞く 〇ジェイク事務所へ戻るとモーレイ夫人が来ている。 モーレイ夫人から、夫殺しの真犯人調査の依頼。 この折、モーレイ夫人に「父」の話を聞くと、婦人はやけに取り乱す。 5 〇モーレイ夫人の父、「ノア・クロス」のところへ行く。カジキ漁をしている会社の社長。(回収) 夫人の父ノアから、亡くなったモーレイの愛人を探す依頼を受ける。ノア曰く、モーレイ夫人は嫉妬深く、愛人が夫人に見つかると危険だから。 〇登記所へ行き、オレンジ畑を調べる。ある地域の土地が集中して売り買いされている。 〇オレンジ畑へ行くと、畑の農民に襲われる。オレンジ畑に水など来ていないと発覚。 〇老人ホームへ行く。伏線において得ていた「死亡欄」の中の名前と「登記簿」の中の名前が一致し、その人物の告別式がこの老人ホームで行われている。 登記簿で土地を買っている人物は全員、この老人ホームにいる。(老人たちの知らないところで、名貸をされて利用されている→ 誰に?) 老人が「カジキ」の編み物をしている。 以前、貯水池で見張りをしていたガードマンが、ここでも現れる。 →つまり、老人ホームの経営者と放水の指示者は同じ、という暗示。 〇ガードマンに追われるも、なんとか逃げ切り、モーレイ夫人の家へいく。 モーレイ夫人とジェイクが愛し合う。 6 プロット2 (1:28) 〇モーレイ夫人がどこかへ出かけるというが、場所は教えてくれない。 ジェイクが、モーレイ夫人の父ノアと既に会っており、「愛人探し」の依頼を受けていると、モーレイ夫人は知る。 「父は、危険人物だ」と聞く。 〇モーレイ夫人がある屋敷へ行くと、そこにモーレイの愛人がいる。(ジェイクは後をつけて発見する) 〇ジェイクが問い詰めると、愛人の女はモーレイ夫人の妹だと分かる。 〇家で休んでいると、偽モーレイ夫人から電話が入る。偽モーレイ夫人の元へ向かうと、警察がおり、ジェイクに容疑が掛けられる。モーレイ夫人に殺人容疑、ジェイクに幇助容疑が掛けられている。 モーレイの死体の肺に「海水」が入っていたと知る。 警察に「モーレイ夫人を探してつれてこい」と指示される。 7 1:45(転1) 〇モーレイ夫人宅へ行くと、夫人はいない。 庭師が「この池の水は芝によくない」と、再度言っている。 家の池の水が海水だと発覚する。 さらに、池に落ちた眼鏡も拾いあげる。 モーレイ家の池でモーレイが殺されたと分かる。 モーレイ夫人が夫殺しの犯人だとジェイクは推測する。 (転2) 〇モーレイ夫人と愛人のいる家へいく。モーレイ夫人「お前が犯人だ」と問い詰める。 しかし、夫人は犯人ではない。(転2) モーレイの愛人が、夫人の娘だと発覚する。 愛人というのは嘘(というか、ジェイクが勝手に愛人だと思っていた)。実は、モーレイ夫人が15歳の頃に父ノアに妊娠させられて生まれた子供だと発覚する。 更に、池で見つけた眼鏡はモーレイのものではないと分かる。 8 〇夫人と娘を「チャイナタウン」へ逃がす。(1:55) 〇夫人を逃がした為、警察に追われるジェイク。男Aの助けを借り、逃走。 〇モーレイ夫人の父ノアを呼び出す。モーレイ殺しの犯人はノアだと本人へ告げる。 真相は、ノアがダムを作る為に水不足を装う為に海へと水を捨てている。それをモーレイが発見した為、ノアがモーレイを殺害。 全ては水の権利をノアが独占する為に仕組んだこと。 娘のモーレイ夫人との子供を手元に戻したいがために、ジェイクを利用している。 真相を知ったが、逆にジェイクはカードマン達に追い詰められる。 〇ノアは娘(モーレイ愛人のこと)を取り戻す為に、夫人のいるチャイナタウンへむかう。 〇警察もチャイナタウンにいる。真相を話すが、警察は聞く耳をもたない。 〇ノアが娘を発見して奪おうとするが、モーレイ夫人が銃で撃って守る。そのまま逃走を計るが、警察に射殺されてしまう。 〇警察に何事もなかったように対応する。 警察は「ここは、チャイナタウンだ」(何が起きても不思議ではない) END 少し長くなりましたが、こんな感じです。 脚本の勉強をする方は、もっと細かくしても良いです。 重要な台詞などは抽出しておいた方が良いです。 経過時間もほぼ書いていませんが、本当は書いておいた方が良いです。 プロット1とか(転)とか無視してください。大体意味は分かると思いますが。 なぜ、こうした作業をするのか? やってみると色々と見えてくるものがあります。 例えば上述の箱だと、全てのシークエンスが「伏線回収」+「伏線提起」だけで構成されていると分かります。伏線回収に向かった場所で新たな伏線が出ます。これを繰り返すことでシナリオを前進させています。 更に、次のシークエンスに切り替わる場面では、必ず「謎」を発生させています。このシーンはすっきり終わりました、という場面は一つもありません。必ず、視聴者を引き込める「謎」を出した上で次に向かいます。 で、このプロット分解というのは、一回だけやってみた! では効果がほぼ無いです。何作品もやると、もっと色々分かってきます。多ければ多い方が良いです。(目標100) 上述の箱ですが、「1」にある出来事の全てが伏線と環境説明だと分かります。起承転結での「起」になる部分ですが、ここは環境説明と伏線以外を書く必要がありません。むしろ、伏線にならないものは書いてはいけません。正直、主人公紹介、環境説明すら邪魔とさえ感じます。実際に、それすら抜かしたプロットは多々あります。 これを言い切れる根拠は何かというと、他の作品も概ねそうだからです。 「チャイナタウン」の「ロバート・タウン」だけがこの構成をしているのではなく、ほぼ全ての映画がそうなっています。 何個も分解することで、それが分かってきます。 「伏線回収」と「伏線提起」でシナリオを進める方法も、この作品だけでやっている事ではなく、ヒット作品はほぼ全部これです。 要は、シナリオの作り方には「一定数の法則」があります。それを探す為に、かつ体に覚えさせる為にプロット分解します。 「体に覚えさせる」というのは、こうして有名作品を分解していると、自分がいざ箱書きやプロットを書いた場合に、「あれ、なんかこの構成変じゃない?」ってなり、タイピングが止まる状態を指します。 そう、数々の名作では「この辺りでこういう事が起きている」のですが、それが自作には無い……、となり非常に薄く感じます。この感覚が重要。 自作って、自分だけは面白いんです。どれほど薄いシナリオでも、自分だけは面白く見えるんです。 アドレナリンどっぷりで麻痺している自身に「ちょっと待った!」をかけるには、冷静に対比できる情報を持っておく必要があります。 その為にも、この訓練は有効です。 シナリオの勉強方法、修行方法って、たぶんこれくらいしか無いです。 インプットに他者作品を見たり読んだりするはずですが、只面白かった~ではお客さんなので、最低でもこれくらいの作業はやっておきたいですね。慣れればニ十分くらいで終わります。 因みに、箱書きには「大箱、中箱、小箱」等に別れますが、上述の箱書きは「中箱」です。これくらいを使うことが一番多いです。本当は重要なセリフなども書いた方が良いです。 できれば時間も書きましょう。(小説だとページ数) また、今回「チャイナタウン」を使ったのは、2時間ぴったりだからです。 かつ、完璧な三幕構成だからです。 「全体の何分に、どの種類のイベントが起きる」とかは、ほぼ決まっています。本作は、ぴったりその時間に、その種類のイベントが発生します。お手本中のお手本作品なので、自身でもやってみて欲しいです。
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